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妊娠後期のホットフラッシュとは?原因・対処法・対策・注意が必要なときを説明
2023.11.01
記事監修
島袋朋乃先生
日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属
「妊娠後期になってから暑い、眠れない…」「暑くて気持ち悪い…」。妊娠後期になって暑くてのぼせるような感じや、ほてりを感じる妊婦さんは少なくありません。中には滝のように汗が出て、ご自身の体調や赤ちゃんへの影響が心配になる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、妊娠後期のホットフラッシュが気になる方に向けて、その特徴や原因、対策、注意が必要なときなどについて説明します。
妊娠後期のホットフラッシュとは
ホットフラッシュは「のぼせ」や「ほてり」のことを指し、主に更年期障害で使用されている言葉です。しかし、妊娠中にもホットフラッシュを感じる方もいます。
症状としては急に暑さを感じて顔に汗をかくことや、上半身や顔が熱くなることなどが知られています。 中には、急な暑さではなく日常的に暑さを感じる方もいるでしょう。
更年期障害で起こるホットフラッシュは、エストロゲンの減少が原因と考えられていますが、一方で、妊娠中ではエストロゲンの分泌量が増えます。似た症状であっても、更年期とは違って別の原因があると考えられるでしょう。
妊娠後期のホットフラッシュの原因
妊娠後期のホットフラッシュの原因について、ここでは女性ホルモンの影響や皮下脂肪の増加、乳腺の発達に注目して説明します。
女性ホルモンによる体温上昇 と基礎代謝量の上昇
妊娠中に分泌が多くなるプロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンには体温上昇の効果があります。
プロゲステロンは妊娠の維持に関係しているホルモンで、水分を体内にため込みやすくなる作用もあります。喉の渇きを感じることも多くなるでしょう。
このように女性ホルモンが正常に働いていることによってのぼせやほてりを感じるため、よほど苦しい場合でなければ体調を心配しすぎる必要はないと考えられます。
また、ホルモンバランスが崩れることによって自律神経に影響が出て、血管収縮・拡張がうまく行われないことが、ホットフラッシュの原因になる場合もあります。
加えて、妊娠中は基礎代謝量が増えて体が熱を産生しやすくなるため、体温が上がりやすくなることもホットフラッシュが起こりやすくなる一因と考えられます。
皮下脂肪の増加
赤ちゃんを守るため 、またエネルギーをため込むために、妊娠に伴って皮下脂肪の増加が起こります。
増加した皮下脂肪によって体温が上昇しやすいことが、のぼせやほてりを感じることにつながる場合もあるでしょう。
皮下脂肪の増加は、女性ホルモンの作用によって仕方のないことなので、こちらもよほどの増加ではない限り、体調を心配しすぎる必要はないでしょう。
妊娠期の乳腺の発達
プロゲステロンの働きの一つに乳腺の発達 が挙げられます。乳腺が発達すると胸元や上半身の血流が活発になるため、のぼせやほてりなど、暑さを感じることにつながります。
乳腺は顔に近い部分なので、血流が活発になることで顔や頭部が熱く感じるかもしれません。妊娠後期のホットフラッシュで顔に汗をかく方は、乳腺の発達が原因の一つとなっている場合もあるでしょう。
妊娠後期のホットフラッシュの対処法・対策
ここからは妊娠後期のホットフラッシュへの対処法や対策をご紹介していきます。
腹式呼吸やツボ押し
ホットフラッシュはホルモンバランスが崩れることにより、自律神経が乱れることによって起こるため、副交感神経を優位にする行動が対処法になる場合があります。
副交感神経を優位にするためには、腹式呼吸やツボ押し、アロマなど、リラックスできると思える行動を取ってみるとよいでしょう。
ツボ押しはすぐにできるため、手にある神門(しんもん:手首の手のひら側)や合谷(ごうこく:人差し指と親指が交差する手の甲側)などを覚えておきましょう。
空調管理
「エアコンが赤ちゃんに悪影響を及ぼすかもしれない…」と考える妊婦さんもいますが、エアコンは無理をせずに使いましょう。脱水症状や熱中症などになってしまうことを考えると無理は禁物です。
扇風機や保冷剤など、エアコン以外の対策も取り入れると設定温度を下げなくて済みます。
食事や水分補給の改善
血液やエネルギーの元になる糖質やタンパク質、脂質の3大栄養素を中心に、バランスのよい食事を心がけましょう。特に暑いうちは、いつもより少し多めの水分を摂取するようにしましょう。
汗と一緒に電解質も失われやすいため、たくさん汗をかいたときには、経口補水液やスポーツドリンクを活用することも覚えておきましょう。ただし、スポーツドリンクの飲み過ぎは糖分過多になりやすいため、注意が必要です。
また、副交感神経を優位にする作用が期待できるハーブティーもおすすめです。一方で、カフェインが入ったものは交感神経を優位にしてしまうため、ホットフラッシュが気になるときは、摂取は控えた方がよいでしょう。なお、カフェインを取りすぎると赤ちゃんの成長にも影響が出るので、1日の摂取量はコーヒーならコーヒーカップに1~2杯が目安です。
寝具の改善
触るとひんやりする冷感素材の寝具を使用することも対策になります。汗を吸収しやすいシーツやパジャマなどもおすすめです。
ただし、寝具だけで暑さ対策をするのは限界がある場合もあります。6~9月あたりの暑くなる時期はエアコンや扇風機などもうまく活用して、乗り切りましょう。
直射日光を避ける
外出時は肌の露出を避けたり、日差しの強い時間帯は外出を控えたり、日光に当たらないように生活することも対策になります。油断していると室内でも熱中症になることもあるため注意が必要です。
自律神経を整える
妊娠後期のホットフラッシュ対策には、交感神経を優位にさせ過ぎず、副交感神経を優位にしやすくすることが大切です。
副交感神経を優位にするためには、好きな音楽や映画などを観てリラックスする時間を作ったり、誰かと話してストレスを発散したりすることがおすすめです。
深呼吸をしたり軽いストレッチをしたり、できる範囲でラジオ体操をすることなどもよいでしょう。
睡眠と運動
睡眠不足になると、交感神経が優位になりやすく、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加します。
コルチゾールによって自律神経やホルモンのバランスが崩れてしまうことから、ホットフラッシュが起こりやすくなることが予想されます。睡眠はしっかりと取っておきましょう。
また、軽い運動をすることでストレス軽減や寝付きが良くなることが期待できます。こちらもできる範囲で取り組んでみるとよいでしょう。
注意が必要なとき
ただののぼせやほてりかと思っても、中には注意が必要な場合もあります。ここでは熱中症や腎盂(じんう)腎炎、妊娠高血圧症候群、甲状腺機能の異常など、受診をすすめる状態について説明します。
熱中症
熱中症は体温上昇や体内のバランスが崩れることによって起こるものです。けいれん、頭痛、意識障害、高体温などの症状が見られます。
妊娠後期のホットフラッシュによって暑いと感じる状態が続くと、気づかないうちに熱中症になっている場合もあるでしょう。
初期症状では立ちくらみ・筋肉痛・頭痛など身近に起こりやすい症状を併発するため、見逃さないように注意が必要です。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は尿路感染症の一つです。細菌感染が膀胱から尿管、腎臓へと続くことで発症することが多い病気です。
妊娠中は大きくなった子宮によって圧迫されて腎臓や尿管に炎症が起こりやすくなり、腎盂腎炎が発症しやすくなることも考えられます。
症状としては激しい腰痛・高熱・吐き気など、また腎盂腎炎の前に膀胱炎になることもあるため残尿感・排尿時痛 ・頻尿などが見られる場合もあります。
発見が遅くなると腎機能の低下や敗血症などにつながる場合があり、また、症状が重篤な場合には子宮収縮から陣痛が始まる場合もあるため、注意して観察しておきましょう。
妊娠高血圧症候群
妊娠後期のホットフラッシュでは、妊娠高血圧症候群(HDP) が関係している場合もあります。
のぼせやほてりに加えて動悸・息切れ・手足の痺れ・頭が重い、目がチカチカするなどの症状があり、これらに加えて血圧が高くなっている場合は妊娠高血圧症候群の可能性があると言えるでしょう。
合併症には子癇(けいれん)発作・妊娠高血圧腎症 ・HELLP症候群・常位胎盤早期剥離・胎児発育不全・胎児機能不全など、いずれも注意が必要なものが挙げられますので、それぞれについて説明をします。
子癇は妊娠20週以降に初めてけいれん発作が起こることで、てんかんとの区別がされます。 子癇が治らない場合は、赤ちゃんだけでなく妊婦さんの命にも危険が及ぶことがあり、状況によっては早期の出産が必要になる場合もあるでしょう。
ホットフラッシュに高血圧だけでなく尿蛋白 が見られると、妊娠高血圧腎症 の場合があります。
重症になると、重度の頭痛や視野障害、呼吸困難、吐き気、尿量の減少などが現れます。
妊娠高血圧症候群に合併することがあるHELLP症候群 では、赤血球の破壊・肝臓機能の低下・血小板の減少が起こります。みぞおちから右肋骨の下部の痛みや吐き気を伴うことがあります。進行すると播種性血管内凝固症候群(DIC) を起こし、多臓器不全や多量の出血を引き起こす恐ろしい疾患です。
常位胎盤早期剥離とは出産前に胎盤が剥がれてしまうことです。赤ちゃんと妊婦さんの命に危険が及ぶ場合もあるため、妊娠中期以降の性器出血や非常に強い腹痛、腹部が異常に硬くなる(板状硬)などの症状がある場合は、すぐにかかりつけ医に相談しましょう。
胎児発育不全は、何らかの原因で赤ちゃんにお母さんの血液が届きにくくなったり、赤ちゃん自身が持つ要因で、成長が遅れたり、止まったりする状態 です。
胎児機能不全は赤ちゃんの元気がない状態のことです。いつもより明らかに胎動が少ないと感じる場合は、かかりつけ医に受診が必要かどうか必ず相談しましょう。
甲状腺機能の異常
甲状腺機能が亢進(こうしん:過剰に働くこと)したり、反対に機能が低下したりすると体調に変化が起こります。
甲状腺は喉の近くにある臓器であり、甲状腺ホルモンは妊娠や出産だけでなく赤ちゃんの発育に関係するものです。
甲状腺機能が亢進した場合にはバセドウ病 などの可能性が考えられます。のぼせやほてりに加えて、イライラや発汗、脈が速いなどの症状が現れることが多いでしょう。
一方で機能が低下した場合には元気がなくなったり、声がかすれたり、また、皮膚の乾燥や薄毛などの症状が見られるでしょう。疾患名としては橋本病や甲状腺機能低下症 などが代表的です。
まとめ
妊娠後期のホットフラッシュは、女性ホルモンの影響や皮下脂肪の増加、乳腺の発達などが原因となっていることが多いようです。
いずれも妊娠や赤ちゃんの成長が進むことで起こることなので心配しすぎる必要はありませんが、熱中症や腎盂腎炎、妊娠高血圧症候群、甲状腺機能の異常と関係している場合があるため、留意して過ごすことが大切です。
妊娠後期まで来たら、赤ちゃんに出会えるまであと少しです。のぼせやほてりでつらいときは無理をせずに、暑さ対策や小まめな水分補給で乗り切ってくださいね。
記事監修
島袋朋乃先生
日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属
プロフィール
平成28年旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院などでの勤務を経て、総合病院やクリニックで産科・婦人科・生殖医療に携わっている。