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妊娠後期で眠れないときの原因・対策・注意点について説明

2024.05.29

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

「妊娠後期になってから夜があまり眠れない…」
「夜になると足がむずむずする…」

妊娠後期になって、夜の睡眠が浅くて昼間がつらいというお母さんは多くいます。

ここではそんな方に向けて、妊娠後期に眠れなくなるときの原因や対策、注意点、かかりつけ医に相談した方が良いときについて説明します。

妊娠後期の不眠は赤ちゃんに影響するのか

多少の不眠は赤ちゃんに影響を与えないと言われています。睡眠不足が続いて、毎日が徹夜のような状態であればかかりつけの先生に相談した方が適切ですが、他に何か症状がなく過ごせているのならあまり心配しなくても良いでしょう。

赤ちゃんはお母さんとは異なる睡眠リズムを持っています。お母さんが眠れなくても赤ちゃんは成長するため、横になって休むだけで良い休息になると覚えておくと良いでしょう。

妊娠後期に眠れない原因

では、ここでは、妊娠後期に眠れなくなる原因として、妊娠による不調や変化、出産への期待や不安、むずむず足症候群、こむら返りに着目して説明していきます。

妊娠によるさまざまな不調・変化

妊娠が進み大きくなった子宮が原因で、体にさまざまな不調や変化が現れます。例えば、お腹が大きくなることによって仰向けで寝るのが難しかったり、子宮が他の臓器を圧迫したりして、胎動を感じて目が覚めてしまうこともあるでしょう。

また、大きくなった子宮に胃や心臓などが圧迫されると息切れや動悸の原因になり、膀胱が圧迫されると頻尿の原因になります。妊娠中(特に妊娠28週目から32週目)は心臓に送られる血液が増加する面もあるため 、寝ていても息苦しさを感じやすい状態です。膀胱が圧迫されて、夜間に頻尿で眠りづらくなることもあるでしょう。

他にも妊娠することで女性ホルモンの分泌が増加しますが、その中でも妊娠後期はエストロゲンの分泌が増えるので、眠りが浅くなる ことも原因として考えられます。

出産への期待や不安

妊娠後期にもなると、出産が近づいている期待や、それと同じくらいの不安やストレスを感じる方が多いと思います。陣痛や破水、おしるしといった出産のサインが、起こった後に適切に対処できるかどうかもわからないとなると気が休まりにくいですよね。このように不安やストレスなどによって興奮状態が続くと、自律神経のうち体を活発にさせる役割を持つ交感神経の働きが強くなります。

さらに、体をリラックスさせる方の副交感神経が働きにくくなるため、期待や不安感が不眠につながることでしょう。

むずむず足症候群

夕方から夜にかけて下半身がむずむずと不快な感覚を感じる場合は、むずむず足症候群かもしれません。

むずむず足症候群とは、股関節や膝関節、足関節(足首)、足指など下肢と呼ばれる部位にいつもとは異なる感覚が生じることです。またの名をレストレスレッグス症候群 と呼ばれることもあります。発症すると、布団の中でじっとすることができず、寝つけたとしても浅い睡眠しか取れなくなるでしょう。

むずむず足症候群の原因は、鉄分不足 によってドーパミン(ドパミン )という神経伝達物質が作られにくくなることが挙げられていますが、実際のところ、未解明な部分も残っています。

むずむず足症候群は、男性よりも女性に起こりやすく、妊娠中、鉄欠乏性貧血、糖尿病、パーキンソン病、関節リウマチなどの方にも起こりやすいと考えられています。

こむら返り

妊娠中期から妊娠後期にかけて、突然ふくらはぎや足裏の筋肉が異常な収縮を起こし、強い痛みを自覚すると思います。これを「こむら(=ふくらはぎ)返り」と言いますが、頻度は個人差があり、 寝転んでいるときや運動中などに起こることが多いかもしれません。こむら返りの頻度が多くなってくることがあれば、主治医の先生に相談してみてください。

妊娠後期に眠れないときの対処法

続いて、妊娠後期に眠れないときの対処法として、ここでは、運動や呼吸法、食事、生活習慣などに着目していきます。

できる範囲の運動をする

日中はできる範囲でストレッチやウォーキングなどの軽い運動をしておくと、程よい疲労感を得ることができて、夜は眠りやすくなるでしょう。有酸素運動を生活に取り入れると自律神経が整いやすくなり、脳への程よい刺激になります。

また、運動は血行改善やむくみ改善なども期待でき、こむら返りの予防にもつながり、血行が良くなると腰痛や肩こり、便秘などの改善にもなります。

ただし、あまり激しい運動や夜間の運動は控えておきましょう。体の負担になり、夜に激しい運動をすると逆に交感神経の興奮が高まり 、目が覚めてしまう場合があります。

日中に10分〜30分ほど、自分にとってちょうど良い負荷となるように運動を取り入れてみてください。

ヨガの呼吸法や筋弛緩法を試す

ヨガの呼吸法により睡眠の質が上がるといわれています。YouTubeでヨガの呼吸法や腹式呼吸や片鼻呼吸について調べてみると良いでしょう。

ヨガのポーズはお腹を圧迫するような姿勢や転倒の危険があるポーズもあるため、取り入れるのは呼吸法にとどめておくことをおすすめします。

また、筋弛緩法は体の緊張を緩める方法であり、ベッドや布団で寝ているときに10秒ほど息を吸いながら手を握り、15秒ほどかけて息を吐きながら腕の力も徐々に脱力していきます。

意識が手に集中するため普段の不安や悩み事などに気を取られなくなることも、リラックスにつながるでしょう。なお、集中する場所は手だけでなく、肩やお腹などでも良いとされています。

飲み物や食べ物に配慮する

飲み物はカフェインフリーのものを選びましょう。特に夕方以降にカフェインを摂ると、目が覚めてしまって寝つきが悪くなるので、寝る前にホットミルクや生姜湯などのカフェインフリーで温かい飲み物を取ると寝つきが良くなるでしょう。

食事では、睡眠の質を高めるトリプトファンを含む食品を意識してみましょう。具体的にはヨーグルトやチーズなどの乳製品、ナッツ、大豆製品などの摂取がおすすめです。

また、こむら返りの予防にはミネラル分の補給がおすすめです。特にカルシウムやマグネシウムの摂取を心がけてみましょう。カルシウムは小魚、マグネシウムはナッツからも摂取できます。

寝る前はスマートフォンやパソコンを避ける

スマートフォンやパソコンの画面から出ているブルーライトは、メラトニンというホルモンの分泌を抑制し 、睡眠の質を低下させます。

メラトニンは私たちの睡眠リズムや体内時計の調整に関係しているホルモンです。通常、日中など明るい場所にいるときはメラトニンの分泌量が少なくなり、夜間の暗いときには分泌量が増えます。

目安としては、就寝2時間前にはスマートフォンやパソコンを使わないように心がけることが大切です。それに加え、寝室を暗くしておくと、睡眠の質をより高くすることができるでしょう。

好きなものに触れてリラックスする

自分が好きだと感じるものに触れてリラックスできると、良い睡眠につながります。妊娠後期になると体を動かしにくくなるため、音楽や香りに触れることをおすすめします。

妊娠8カ月あたりからは赤ちゃんの聴覚が完成 しつつあるため、クラシック音楽を赤ちゃんと一緒に聞いてリラックスすると良いでしょう。

また、アロマもリラックス効果が高く、心地よい睡眠を促す効果が期待できます。ローズウッド・マンダリン・ベルガモット・オレンジ・グレープフルーツなどがおすすめです。

一方で、ジャスミン・ラベンダー・カモミール・ローズマリーなどは、子宮収縮作用がありため、注意が必要です。 一度かかりつけ医に相談してからアロマを使用しましょう。

生活リズムを意識して昼寝をほどほどに

夜に十分な睡眠を取ることができない方は、昼寝で補う方法も効果的です。ただし、昼寝のしすぎには注意しましょう。長時間の昼寝をすると、夜の睡眠パターンに悪影響が出て、結果的に生活リズムが乱れてしまいます。

理想的なのは、30分以内の昼寝を15時までにすることです。うまい具合に昼寝ができれば、生活リズムをキープしつつ、睡眠による問題にも対処することができるでしょう。

入浴をする

入浴は体を温めて血流を良くするため、心身ともにリラックスするのに良い方法です。
また、こむら返りの予防にもなります。

特に、寝る90分〜120分前の入浴がおすすめです。人は体温が下がると同時に眠気を感じやすいため、入浴後90分〜120分のタイミングになると体温がちょうど良く下がります。

また、お湯の温度は熱すぎないように、38℃〜40℃のぬるま湯で5分〜10分程度の入浴を心がけることが大切です。42℃を超えるような熱い湯 は交感神経が活発になって頭が冴えてしまうため、注意しましょう。

寝る姿勢を工夫する

妊娠後期はお腹が大きくなっているため仰向けで寝るのが難しくなります。仰向けだと大きくなった子宮が下大静脈という太い血管を圧迫するため、仰臥位低血圧症候群となり、気持ち悪いと感じやすいでしょう。

寝るときは横向きの姿勢であるシムス位がおすすめです。体の左側を下にして寝て、上側の足(右足)を前に出して膝を床につける姿勢を取ると、シムス位になります。この姿勢は仰向けよりも子宮への血流を圧迫しないため、母体にも胎児にも負担になりにくい状態を保つことができます。

抱き枕を使用することでより快適に、リラックスした状態が取れることもあるため、気になる方は試してみてください。このように寝る姿勢を工夫することで、睡眠の質を上げることができるのです。

早めに産休に入ることが可能か調整をする

働いているお母さんで日中はどうしても睡眠不足でつらい方は、勤務先には相談しにくいかもしれませんが、早めに産前休業(産休)に入ることを検討することも対策の一つです。

労働基準法では、出産予定日の6週間前から産休を取得することができます。 ただし、体調不良や妊娠の経過に不安がある場合は、会社と相談のうえで、より早く産休に入ることが可能な場合があります。

また、双子など多胎妊娠の場合は予定日の14週間前 から産休を取得できるなど、妊娠の状況に応じた対応が設けられています。

母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)も有効活用できる場合があるので、詳細は主治医の先生に相談してみると良いでしょう。

産前休業の前に有給休暇を消化することも可能ですが、こちらも勤務先には早めに相談して、お母さんと赤ちゃんの健康を考えた計画を立てることをおすすめします。

妊娠後期で眠れないときの注意点

スマートフォンやパソコンを使ったり、テレビなどを観たりして、眠くなるのを待つ行動は、寝られないときについやってしまいがちですが、画面から放つブルーライトや明るい光の刺激によって目が冴えてしまいます。

お母さんの中には、睡眠薬や漢方、サプリメントなどで不眠対策をしようと考える方もいるかもしれませんが、自己判断での使用は控えておきましょう。

不眠対策に限らず、お薬や漢方、サプリメントなどを使用したい場合はかかりつけ医に相談してから、医師の判断に従って使用することが大切です。

こんなときはかかりつけ医に相談

あまりにも眠れないときも注意が必要です。睡眠不足が原因でストレスが溜まりやすくなると、気づかないうちにうつ病になる恐れがあります。多少の睡眠不足であれば心配しすぎることはありませんが、過度の睡眠不足で赤ちゃんに影響が出ることも考えられます。不眠でつらい日々が続く場合は、無理をせずにかかりつけ医に相談しましょう。

まとめ

順調に妊娠が進んでいる以上、妊娠後期に眠れなくなることは自然なことです。妊娠後期に眠れないときの原因には主に、妊娠が進むことによる体調の変化や、出産に対する期待や不安、場合によってはむずむず足症候群やこむら返りなどが主に挙げられます。

対処法には日常に取り入れやすいことが多くあると思いますので、できる範囲から試してみましょう。

また、あまりにも不眠がひどいときは、かかりつけ医に相談することをおすすめします。赤ちゃんに会えるまでもう少し、うまく乗り越えて、出産に備えてくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。