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妊娠後期の浮腫って大丈夫?対処法や注意が必要なときについて説明
2024.05.22
記事監修
阿部一也先生
日本産科婦人科学会専門医
「むくんで象の足 みたいに…」
「妊娠後期の浮腫はよくあること?」
妊娠後期に浮腫(むくみ)で悩まされるお母さんは少なくありません。
中には臨月になって急にむくみ 始めた方もいるのではないでしょうか。
ここでは妊娠後期の浮腫が気になる方に向けて、その原因や対処法、注意が必要な時などについて説明します。
妊娠後期の浮腫は一般的なこと
妊娠後期の浮腫は、基本的に妊娠によって自然と起こるものです。体内の水分が溜まることで、手足などが腫れぼったい印象になるのが浮腫の症状です。
例えば、足のむくみだと、靴下を脱いでも靴下の締めつけの跡がなかなか消えないときがあることでしょう。デスクワークや立ち仕事など、長時間にわたって同じ姿勢が続くと浮腫が起こりやすくなります。
妊娠後期の浮腫の原因
妊娠後期の浮腫の原因はいくつかあります。ここでは、ホルモンバランスの変化や下肢静脈瘤、赤ちゃんの重みによる血管の圧迫などに着目して説明します。
ホルモンバランスの変化
出産に向けて全身の血液量が増えていく時期でもあるため、普段よりもむくみやすくなりがちです。
妊娠後期はエストロゲンやプロゲステロンの作用により、妊娠を維持しやすいよう栄養素や水分を体に溜めやすくなります。アルドステロンやコルチゾールなど も、体が水分を溜め込む方向に働きかけるホルモンであり、バランスの変化によってむくみを感じやすくなるでしょう。
下肢静脈瘤
下肢静脈瘤の症状の一つに浮腫が挙げられます。静脈は心臓から送り出された血液が戻る血管のことです。なお、足の静脈の一部が太くなって瘤状になったものを下肢静脈瘤といいます。
心臓から遠い位置にある足の静脈では、心臓に戻るときに重力に逆らって血液を送り出す必要があります。
通常、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割をして血液を押し上げ、静脈弁が血液の逆流を防いでいます。ただし、何らかの理由でこれらが働かないと、静脈に血液が溜まって下肢静脈瘤となる場合があるのです。立ち仕事やデスクワークが多い方に下肢静脈瘤が起こりやすいのは、これらが原因となっています。
赤ちゃんの重みによる血管の圧迫
赤ちゃんが大きくなったことで、その重みにより脚の付け根にある大静脈(腸骨静脈)が圧迫されて浮腫が起こっている場合があります。脚の付け根が圧迫されると静脈の血液が心臓に戻ることができず、脚の部分で滞ってしまうのです。
また、心臓の次に血流のポンプの役割を担っているのがふくらはぎですが、妊娠中は運動がしにくくなることから、ふくらはぎのポンプ機能も弱くなることが考えられます。
妊娠後期の浮腫の対処法
では、浮腫があるときにはどのようなことが浮腫の対処法になるのでしょうか。ここではマッサージやツボ押し、ストレッチ、横になるときは足を高い位置にすること、着圧ソックスの着用について説明します。
マッサージやツボ押しをする
むくんでいる部位ごとにマッサージやツボ押しをすると、血行の改善などから浮腫の対処ができます。足がむくん でいる場合は握り拳でリンパを流すように軽く押し当てていくとよいでしょう。足首から膝に向かってマッサージするのも効果的です。
ただし、足裏や足指は妊娠に影響するツボがあるため、自己判断では押さないよう注意が必要です。むくみが腕にある場合は、手指など先端の方から肘、そこから胸や脇にマッサージしましょう。
ツボ押しの場合、「豊隆(ほうりゅう)」や「太衝(たいしょう)」がおすすめです。豊隆は膝の外側と足首の外側の中間にあり、太衝は足の親指と人差し指の付け根が合わさるところの凹みにあります。それぞれ親指やツボ押し用の棒で押すとよいでしょう。
ストレッチをする
軽いストレッチをするだけでもむくみの対処になります。同じ姿勢が続いているときなどは、姿勢を変えるついでにストレッチもしてみましょう。両手を合わせ頭の上に伸ばしたり、手でグーパーをしたり、これらを何セットか繰り返すとスッキリします。
下半身のストレッチとしては、座って両足を伸ばして両手を後ろにつけ、片方の膝を内側や外側に曲げるとよいでしょう。
同じ姿勢で片方の足を曲げて足先を股間の前に起き、もう片方の足をまっすぐに伸ばすなどもよいストレッチになります。
横になるときは足を高い位置にする
寝転がるときに足を高い位置にするだけでも、浮腫の対処になります。クッションなどの上に足を置いて、下半身に溜まった水分を心臓の方向に戻すようなイメージでするとよいでしょう。
着圧ソックスを履く
着圧ソックスで程よく足に圧をかけることで浮腫の対処ができます。マタニティ向けの着圧ソックスには、あまり締めつけが強すぎないものもあるので、自分にあったものを選びましょう。
妊娠後期の浮腫の対策
ここからは、浮腫を防止するための対策として、運動や入浴など日常の動作に関することから、カリウムの摂取や水分補給など食事に関することについて触れていきます。
軽い運動をする
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で運動を取り入れると、血行促進によりむくみの改善が期待できます。
妊娠後期は何が起こるかわからないため、散歩をするときは遠出を控え、家の近くの範囲で、携帯電話やナプキンなどを持って散歩にいきましょう。
カリウムの摂取を心がける
血液中の塩分が多いと塩分濃度を低くするために水分量が増えて、むくみやすくなります。そのため、腎臓系の持病がなければ、塩分を体外に排出する効果が期待できるカリウムを意識的に摂取しておくとよいでしょう。
カリウムは納豆などの大豆製品、にんじん、ほうれん草、ブロッコリー、きのこ類、アーモンドやくるみ、キウイなど身近な食品に含まれています。
こまめに水分補給をする
むくんでいるからといって水分を取らないのではなく、適切な量の水分をこまめに取りましょう。
ただし、過度に取ると浮腫が悪化するので、こまめに飲んで、1日あたり合計2リットルほどを目安にするとよいでしょう。
10分ほど入浴をする
血流を良くするために短時間の入浴をすることも浮腫の予防になります。38℃〜40℃のぬるま湯に10分ほど入るとよいでしょう。
また、妊娠後期は全身の血液量が増えているため、のぼせるのも早くなるので、熱すぎるお湯や長湯は控えましょう。
塩分を控える
塩分を取りすぎると体内の塩分濃度を下げるために、体が水分を溜め込むように働きます。1日の塩分量は6.5g以下を目安にしておきましょう。
なお、カップラーメンにはスープを含めると1杯で5g〜6gの塩分が入っているので、インスタント食品の利用には注意をしておくとよいでしょう。
できるだけ睡眠を取る
睡眠不足が原因でホルモンバランスが崩れ、むくみやすくなっている場合もあります。妊娠後期であまり夜に寝むれない方もいるかと思いますが、昼間に軽い運動を取り入れたり、就寝の90分〜120分前にぬるめの湯に浸かったりするなどして、睡眠の質を上げる工夫をしてみましょう。
30分以内の昼寝をして、睡眠時間を補うのも対策になります。また休む際には、可能であれば足を少しだけ高くすると、浮腫の改善につながるかもしれません。ただし、妊娠後期では足を上げることが大変なこともありますので、できる範囲で対応しましょう。
締めつけがゆるい服を選ぶ
衣類の締めつけが強いと血行不良につながって浮腫の原因となっている場合があります。産後に授乳しやすいタイプのマタニティウェアなどコスパの良いアイテムもありますので、ゆったりした服装で過ごすことを意識してみましょう。
姿勢に気をつける
長時間にわたって同じ姿勢でいると血行が悪くなるので、産休前のお母さんはデスクワークや立ちっぱなしで作業をしていないか、見直してみましょう。
妊娠後期の浮腫で注意が必要な場合
浮腫と同時に他の症状がある場合は注意が必要です。
例えば、高血圧や頭痛、腹痛、呼吸困難、目がチカチカするなどの症状があるときは「妊娠高血圧症候群」の可能性もあるかもしれませんので、かかりつけ医に診てもらいましょう。
また、顔に浮腫があるときは他の病気が隠れている場合があります。特に腎臓や心臓に持病がある方は注意し、異変や不安がある場合はかかりつけ医に相談することをおすすめします。
妊娠後期の浮腫と関連のある病気
最後に、妊娠後期の浮腫と関係のある病気について説明します。浮腫は妊娠高血圧症候群や深部静脈栓、蜂窩織炎などによっても起こります。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊娠時に起こる高血圧のことです。高血圧の基準は一般的には収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上 とされております。
高血圧や頭痛、腹痛、呼吸困難、目がチカチカするといった症状の一つに浮腫があり、高血圧や尿蛋白が見られる場合は、妊娠高血圧症候群である恐れがあります。
妊娠高血圧症候群は、子癇発作や肝機能障害、常位胎盤早期剥離、胎児発育不全など、重篤な合併症につながる恐れのある症状です。根本的な治療は妊娠の終了、つまり分娩になります。基本的には産後しばらくすると自然に治ることが多いですが、中には降圧剤を使用しないと改善しないことあります。妊娠中はかかりつけ医に自分の状態をよく把握してもらって、指示に従って過ごすことが大切です。
深部静脈血栓
深部静脈血栓症は、静脈中に血栓という血の塊ができる病気です。片方の足が大きく腫れて歩くときに痛んだり、触ると痛かったりするなどの症状が起こります。違和感がある場合はかかりつけ医に診てもらいましょう。
ふくらはぎや足の表面に血栓ができた場合はあまり重症につながりませんが、下腹部や太ももなどの深部静脈に血栓ができると重症になりやすいといわれています。
もし血栓が静脈から心臓の方に流され、肺に詰まった場合は肺塞栓症 となり、命に危険が及ぶため、疑わしい場合は注意深く観察しましょう。
蜂窩織炎
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚とそのすぐ下の組織で起こる細菌感染による症状です。原因となる細菌はレンサ球菌やブドウ球菌であり、患部には赤みや痛み、熱く感じること、腫れなどが起こります。放置するとリンパ節に炎症が起きたり、発熱や悪寒など全身性の症状が現れたりするため、早期にかかりつけ医に診てもらうことを推奨します。
まとめ
妊娠後期の浮腫に悩まされるお母さんは多くおられます。妊娠が順調に進んでいれば起こりうる症状なので心配しすぎる必要はありませんが、中には注意が必要な病気と関係していることもあります。
あまりにも浮腫がひどい場合や長く続く場合、また、違和感や不安を抱くことがあればかかりつけ医に相談しましょう。
記事監修
阿部一也先生
日本産科婦人科学会専門医
プロフィール
2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。