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妊娠初期に起きる貧血の原因とは?予防する食材&おすすめレシピを紹介

2023.04.24

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

妊娠初期の貧血は、多くの妊婦さんが経験するものです。こちらの記事では、妊娠初期によくある貧血の原因と、食事を中心とした対策をご紹介します。妊娠初期は、さまざまな体調不良や体の変化が現れます。特に貧血は、胎児の成長や出産後の母体にも影響を及ぼすため、継続的なケアが必要です。自身に合った貧血対策で、体調を整えていきましょう。

妊娠中に貧血が起こりやすいのはなぜ?

もともと女性は、男性よりも貧血に悩まされがちです。妊娠していなくても、女性には生理(月経)があるため、男性よりも血液を失う頻度や量が多くなります。

妊娠中は生理がなくなりますが、おなかの赤ちゃんに栄養と酸素を供給しなければなりません。そのため、いつもよりさらに多くの血液が作られますが、赤血球の生産量自体はあまり増えないため、鉄分不足になりがちです。つまり、妊娠中の貧血は血液量が増え、水血症(すいけつしょう)という血液中の水分が薄くなることが原因といわれています。

①妊娠が進むにつれ鉄分が不足しがちになる

妊娠中は、自身の体だけでなく胎盤にも多くの血液が送られます。これは、子宮内の胎児に栄養と酸素を送るためです。体の中を流れる血液量(循環血液量)は、妊娠が進むにつれ増え、妊娠6~12週時点の血液量は、妊娠していないときに比べ15~20%増加します。妊娠30~34週になると約40%も増加しますが、赤血球の量は最大で20%程度しか増えません。

加えて、母体に蓄えられている鉄分の運搬先として優先されるのは胎児です。胎児は成長すればするほど、必要な血液量や鉄分が増えるため、妊婦本人はさらに貧血になりやすくなります。おなかの赤ちゃんが大きくなればなるほど、より鉄分の補給を意識しなければなりません。

このように、血液が薄くなってサラサラになっている状態を水血症といいます。貧血になりやすいデメリットはありますが、薄くサラサラした血液は、ドロドロした血液より体の中をスムーズに循環するので、胎児に酸素と栄養を届けやすいメリットもあります。

とはいえ、貧血が改善したからといって、血液がドロドロになることはありません。貧血を改善することで、分娩時の出血に備えるのはとても大切なことです。医師から貧血を指摘されたらサプリメントや処方薬を服用し、上手に鉄分ケアしていきましょう。

②妊娠初期にも貧血には要注意!

循環血液量の増加に比べ、鉄分が不足しがちになる状態は、妊娠が進めば進むほど顕著になっていきますが、この変化は妊娠初期から始まっています。そのため、おなかの大きさが目立たない妊娠初期の段階であっても、貧血になりやすいので注意してください。

加えて、妊娠初期はつわりにも悩まされるので、何を食べても気持ち悪く、食事量が減る妊婦さんも少なくありません。食事量が減ることで、鉄分摂取量が減り、貧血になるケースもあるので、妊娠が分かった段階から、鉄分の摂取を心がけていきましょう。

妊娠中の貧血が及ぼす悪影響

妊娠中の貧血が悪化すると、母体だけでなく胎児にもいろいろな悪影響があります。妊娠中だからこそ気をつけたい症状を解説していきましょう。

①息切れや目まいなどが起こる

妊娠中に起こりやすい貧血は、鉄分不足によるものです。血中の鉄分が不足すると、体を動かしたときに、動悸・息切れ・目まい・頭痛・倦怠感・顔色の悪化などが起こります。

一時的なものであれば、それほど深刻ではありませんが、状況や程度によっては、目まいやふらつきにより転倒し、けがをするかもしれません。妊娠する前から貧血気味の場合、普段からこうした症状を経験しているため、妊娠後の貧血の悪化に気づきにくいようです。いつの間にか貧血が重症化し、妊娠中や出産時、出産後に体調の思わしくない状態が続くケースもあります。

動悸や息切れ、目まいが悪化しているなら、貧血症状が進んでいるのかもしれません。また、顔色がいつもより青白い、まぶたの裏側が白いなども貧血症状の特徴です。早めに医療機関で診てもらいましょう。

②胎児の発育に影響が出る

貧血症状が悪化すると、胎盤へ送られる血液も減ってしまいます。胎盤への血液量が減ると、胎児に十分な酸素と栄養が供給できないため、胎児があまり大きくならないかもしれません。

重症の貧血が続けば、胎児の発育不全や切迫早産のリスクが高くなるとの指摘もあります。医療機関により基準は異なりますが、血液検査でおおむねヘモグロビン値6.0g/dl以下になると、重症貧血と診断されるかもしれません。

妊娠中にある程度の貧血症状が現れることは珍しくないため、貧血症状が出たからといって過度に不安になる必要はありません。ただし、血液検査でヘモグロビン値が10.0g/dlを下回る場合は鉄剤の服用が推奨されているので、頭に入れておくとよいでしょう。

③出産時、輸血を要するリスクが高まる

貧血の症状が進むと、胎児に影響が出る可能性があると同時に、母体の健康リスクも高くなります。加えて、貧血が改善されないまま出産を迎えると、出血量が多くなったときに輸血をしなければならなくなるなど、悪影響を与えかねません。

一般的に、出産にかかる時間は初産で12~15時間、経産婦では約半分の5~8時間です。初産で30時間以上、経産婦で15時間以上経っても出産に至らない場合は、遷延分娩(せんえんぶんべん)と診断され、場合によっては器械分娩や帝王切開が必要になることあります。

また、妊娠高血圧症候群は血液凝固不全(出血が止まりにくくなる症状)の原因にもなり、分娩後異常出血を引き起こす可能性もあります。貧血症状が進んだまま出産を迎えると、母子ともに負担がかかるため、出産を迎える前の体調には十分注意しましょう。

④産後の悪影響

出産後は、胎児や胎盤に血液を送る必要がなくなるため、妊娠中のような貧血症状は少しずつ改善されていきます。ただし、出産時にも多くの出血があるため、もともと貧血体質のある方は、体力や体調の回復に必要な血液量を取り戻すのに時間がかかるかもしれません。

加えて、母乳は血液から作られるため、貧血体質の方は母乳育児が難しいといわれていますので、注意が必要です。生まれたばかりの赤ちゃんは、出産時に母親から鉄分をある程度摂取しているので、生後半年くらいは鉄分の補給を必要としません。

しかし生後半年を過ぎると、母乳やミルクから鉄分の補給が必要になるので、母乳育児を望んでいる場合は、それまでに貧血症状の改善が必要です。出産後の早期回復や、健康的な母乳育児のためにも、出産前から貧血症状には注意しておきましょう。

貧血対策におすすめの食材

貧血対策の基本は、食事内容の改善です。ここでは鉄分を多く含む食材と、鉄分の吸収率をアップさせるポイントをご紹介します。

①動物由来の鉄分「ヘム鉄」を多く含む食材

ヘム鉄とは、レバーや豚肉などから摂取できる動物由来の鉄分です。ヘム鉄は体に吸収されやすい特徴があります。ただし、レバーやうなぎには、摂取しすぎると胎児に奇形をもたらしうるビタミンAも多く含まれていますので、妊娠中はこれらの食品を大量に摂取することは避けましょう。

ヘム鉄を多く含む食材の一例

食品名(状態/調理法) 100gあたりの含有量
あゆ(天然/内臓/焼き) 63.0
あわび(塩辛) 34.0
やつめうなぎ(干しやつめ) 32.0
あさり(缶詰/水煮) 30.0
ぶた(スモークレバー) 20.0
あさり(つくだ煮) 19.0
あゆ(養殖/内臓/焼き) 19.0
かたくちいわし(煮干し) 18.0
干しえび 15.0
ビーフジャーキー 6.4

参照:食品成分データベース(文部科学省)

②植物由来の鉄分「非ヘム鉄」を多く含む食材

非ヘム鉄は、ほうれん草や小松菜など植物由来の鉄分です。体への吸収効率ではヘム鉄に劣りますが、ヘム鉄に比べ、ヘルシーな食材が多いため、健康的に鉄分を摂取できます。

非ヘム鉄を多く含む食材の一例

食品名(状態/調理法) 100gあたりの含有量
あおのり(素干し) 77.0
かわのり(素干し) 61.0
干しひじき(鉄窯/乾燥) 58.0
いわのり(素干し) 48.0
きくらげ(乾燥) 35.0
えごま(乾燥) 16.0
大豆(全粒製品) 12.0
干しわらび(乾燥) 11.0
干しぜんまい(乾燥) 7.7
切り干し大根(乾燥) 3.1

参照:食品成分データベース(文部科学省)

③鉄分の吸収率をアップさせるポイント

妊娠初期や妊娠中に、鉄分を意識して摂取することは大切ですが、一つの食材をたくさん食べようとすると栄養が偏ったり、他に必要な栄養素が不足したりするかもしれません。

特に、ヘム鉄を多く含む動物性食材の場合は、脂質が多くなる可能性もあります。鉄分を摂りたいときも、栄養バランスを意識しましょう。

例えば、非ヘム鉄(植物由来)は、ビタミンCを含む食品と組み合わせると、吸収率がアップします。オレンジやレモンなど、ビタミンCが豊富な果物をデザートにするとよいかもしれません。

また、ヘモグロビンは血液で酸素を体に運ぶ役割があるタンパク質です。大豆製品や野菜と一緒に、動物性タンパク質(牛肉や豚肉、魚介類、牛乳やチーズ、卵など)を摂ると、鉄分を効果的に摂取できるでしょう。

調理するときは、鉄製の鍋やフライパンを使うと、少量の鉄が溶け出して鉄分を補給できるのでおすすめです。ひじき煮や切り干し大根の煮物など、鉄分の多い常備菜を鉄製の調理器具で作り置きしておくと、妊娠中も手軽に鉄分を摂取できるでしょう。

食前・食後に鉄分の摂取を妨げるタンニンを控えるようにしてください。コーヒーや紅茶、緑茶は、食間に楽しむのがおすすめです。

簡単にできる貧血対策レシピ

妊娠初期は、つわりを含む体調不良で思うように動けないこともあります。簡単に作れる貧血対策レシピをご紹介します。

①鶏ささみと小松菜のマヨみそごまあえ

小松菜は非ヘム鉄を多く含む野菜です。また、油と一緒に摂取すれば、鉄分の吸収率もアップします。また、鶏ささみ肉は、脂質を抑えつつ、タンパク質を摂取できるヘルシーな食材です。

  1. 小松菜は、洗ってから食べやすい大きさに刻み、耐熱ボウルに入れてラップをかけ、600Wのレンジで2分加熱。加熱後は、ザルに上げて水気を切る。
  2. 小松菜を出した耐熱ボウルに、今度は鶏ささみ肉(3本程度)を入れ、ごま油(小さじ1)、お酒(大さじ1)、しょうゆ(大さじ2)をふりかける
  3. 2.の耐熱ボウルの上にラップをし、600Wのレンジで2分ほど加熱する。加熱後、箸でほぐしつつ、生の部分が残っていれば、30秒程度追加で加熱する。
  4. ささみをほぐしたら、1.の小松菜を入れ、みそ、マヨネーズ、すりごまを大さじ1ずつ入れてあえれば完成。

②切り干し大根サラダ

  1. 切り干し大根を水で戻し、軽くゆでた後、ザルに上げて流水で粗熱を取り、水気を絞る。
  2. きゅうり(1本)とニンジン(1/2本)を千切りにする。ニンジンは、耐熱ボウルに入れてラップをし、600Wのレンジで2分ほど加熱するとやわらかくなる。
  3. わかめをお好みの大きさに切って加え、全ての材料をボウルに入れる。
  4. マヨネーズ、塩こしょうを適量加え、あえたら完成。

切り干し大根は、葉酸と鉄分を多く含みます。葉酸は、胎児の成長に必要な栄養素です。特に妊娠初期は、胎児の脳や神経管、心臓などの体の重要な部分が形成されるため、妊娠前から意識して葉酸を摂取しておきましょう。

③プルーンきな粉ヨーグルト

  1. 容器にヨーグルト(100g)を入れ、プルーンを加えます。
  2. お好みの量のきな粉、メープルシロップを加えて完成です。

妊娠初期につわりがあると、食べにくさ感じる食材も多く、栄養不足になりがちです。タンパク質や鉄分、ビタミン、ミネラルは意識して摂取するようにしましょう。ヨーグルトは、つわりがあっても食べやすいので、朝食スイーツにもおすすめです。

プルーンをレーズンに変えたり、ビタミンCを多く含む果物をプラスしたり、自身が食べやすい食材を選んでみてください。

まとめ

妊娠初期の貧血は、体が胎児を育てる準備をしていることや、つわりで食事量が減ってしまうことなどが主な原因です。

貧血が重症化すると胎児に悪影響が出る可能性があり、出産時のトラブルにもつながりかねません。もともと貧血症状がある方はもちろん、そうでない方も鉄分を意識した食事を整えていきましょう。

また妊娠中の食生活は、栄養のバランスを考えていれば、外食やコンビニエンスストア、ファストフードのものを食べても差し支えありません。葉酸や鉄分など妊娠中に必要な栄養素は、サプリメントも上手に活用して摂取しましょう。

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

プロフィール

平成28年旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院などでの勤務を経て、総合病院やクリニックで産科・婦人科・生殖医療に携わっている。

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