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【産後の体のケア】産褥期とは?体の変化や対処法を説明

2024.09.30

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記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

「産後、いろんなところに変化が出てきてボロボロになった気分…」
「産後の体のケアって何をすれば良いの?」

出産という大仕事を経て束の間、今度は体の変化やケアの方法について気になる方も多いのではないでしょうか。

ここでは産後すぐの産褥期、体の変化やケア方法などについて説明します。

産褥期とは

出産を終えて体が元に戻るまでの6週間から8週間ほどの期間を産褥期(さんじょくき)といいます。この時期は、主に体を回復させる期間ですが、実際にどのように過ごすとよいのか、また、やってはいけないことは何かを説明します。

過ごし方

産褥期の最初の1週間から2週間は安静と休養を優先するべき時期です。出産のダメージが残っている期間なので、母乳をあげる以外はなるべく体を休めましょう。母乳は産後の2日から3日ほどで出始めて、生後3カ月ごろまでに量が安定 する方が多いようです。

簡単な家事や部屋の片付けなど負荷の小さい作業は、産後3週間から4週間ほどで始められる方が多いですが、無理は禁物です。まだ体が回復していないと感じるときは、休息を取りましょう。

長時間の立ち仕事など負荷の大きいことはまだ避けておく必要があります。家事なども完璧にこなそうとは思わずに、家族の協力が得られる方は積極的に頼るとよいでしょう。また、食事には冷凍食品やレトルト・インスタント食品を有効活用したり、ロボット掃除機などの便利家電に頼ったり、無理のない範囲で過ごしましょう。お母さんと赤ちゃんが最低限清潔に保たれていて、お腹が満たされていて、完璧に片付いてはいなくても安全に過ごせるならひとまずは問題ありません。

5週間から8週間でより体力が回復してきますが、出産前と近い体力になったと感じるのは産後3カ月から1年ほどの方が多いようです。労働基準法においても産後8週間以内の就労は禁止されているので、 散歩は短時間で済ませるなど、無理をせずに過ごすことが大切な時期です。

また、月経の再開は授乳をしていないお母さんで産後4カ月以内に、授乳をしているお母さんは産後約6カ月で再開することが多い傾向にあります。授乳中でも、1年以上月経が来ないときは婦人科で相談しましょう。

やってはいけないこと

産後は基本的に体を休める期間です。以下のように、体の負担になることは避けて過ごしましょう。

・激しい運動やダイエット
・長距離や長時間にわたる外出
・喫煙や飲酒
・カフェインの摂り過ぎ
・産後1カ月検診前の性行為

産後の体の変化

産後の体の変化は交通事故に遭遇するようなものと例えられるくらい、体への負荷が大きいものです。ここでは、産後は具体的にどのような体の変化が起こるのかを説明します。

後陣痛

子宮が元の大きさに戻っていくときに起こる痛みが後陣痛です。授乳時に分泌されるオキシトシンというホルモン の働きで子宮が収縮し、それに伴って腹部に月経痛のような痛みを感じることがあるでしょう。

悪露

悪露(おろ)は子宮に溜まった血液や分泌物、腟の分泌物が混ざったものです。産後1カ月ほどにわたって見られる症状であり、初期は赤く、徐々に茶褐色に変化し、量も徐々に減っていきます。1カ月検診のときに無臭で白色になっていれば大きな問題はないと判断されるでしょう。

会陰切開・帝王切開の痛み

傷の程度にもよりますが、産後2週間は切開による傷そのものが痛むでしょう。傷が治った後も、瘢痕とよばれる傷跡が残るため、痛みや座ったときの違和感を覚えることがあります。

抜け毛

時期や量などには個人差がありますが、ホルモンバランスが大きく変化することによって産後3カ月から6カ月くらいの間に抜け毛が起こる方が多くおられます。


【関連記事】産後の抜け毛はいつからいつまで?原因や対策を説明

乳房の変化

産後は母乳の産生が始まり、胸が張って重く感じるようになります。こまめに母乳を出し、それを赤ちゃんにあげることを心がけると、張りによる痛みが軽減されるでしょう。乳房が熱っぽい場合は、冷やしたタオルを当てることも対策になります。育児に慣れない時期は乳腺炎を起こしやすくなります。助産師と授乳の方法や間隔などについて相談しておくことが大切です。

便秘・痔

産後は、出産時の出血や授乳などによって体内の水分は奪われがちです。また、会陰切開や帝王切開などで下腹部や陰部に傷があると、お腹に力を入れたり、便を出したりすることで痛みが悪化し、つい我慢しがちになります。これらも便秘の理由になるでしょう。

腰痛・骨盤の変化

出産によって骨盤の結合組織が緩んだ状態だと、姿勢が悪くなり腰痛につながります。また、腰痛だけでなく尾てい骨が痛むこともあります。

姿勢が悪くなったままだと腰だけでなく、股関節や膝関節にも負担がかかるので、普段の姿勢に注意しておきましょう。

膝の痛み・関節痛

赤ちゃんを抱っこすると、その3倍の負荷が膝にかかる と言われており、産後の膝痛の原因になると考えられています。

また、妊娠中は痛みを感じにくいようにステロイドホルモンが分泌されて炎症が抑えられていますが、産後にはこの分泌が抑制されます。ステロイドホルモンによって抑えられていた関節痛などが表面化することも考えられるでしょう。

尿漏れ

出産に伴って、骨盤周辺にある筋肉群の骨盤底筋が緩みます。骨盤底筋には骨盤内の臓器を支える役割や排尿・排便をコントロールする役割があるのですが、産後は骨盤底筋が緩むため、くしゃみをしたり、走ったりすると腹圧がかかるときに尿漏れが起こることがあるのです。

肌荒れ

ホルモンバランスの変化により、産後は肌の荒れや乾燥を感じる方がおられます。妊娠中には女性ホルモンであり肌の潤いを保つ作用が期待されるエストロゲンが多く分泌されていますが、産後は一時的にエストロゲンの分泌量が少なくなるため肌が荒れやすくなるのです。

体重の増加

体が母乳を作るようになると空腹を感じやすくなります。また、育児によるストレスから過食気味になるお母さんもおられます。
産褥期は体を回復させることが大切なので、運動の機会も減ってしまって体重が増加しやすくなる面もあるでしょう。

むくみ

産後の8週間は体がむくみやすい状態であり、子宮に溜め込まれた水分が出産によって急に解放されることにより、それを補うために体が水分を溜め込もうとする作用があります。

また、母乳に伴い水分が必要になることや、産褥期は安静にしていることが理由で血流が滞りやすくなるといった理由からもむくみやすくなることが考えられるでしょう。

妊娠線

妊娠による体型の変化で、ひび割れのようにお腹にできる線を妊娠線といいます。
皮膚には、外側から表皮・真皮・皮下組織が存在しているのですが、真皮や皮下組織などの一部は急な伸びに対応できない特徴があり、限界よりも引き伸ばされると亀裂が入ってしまって、妊娠線となることがあるのです。

マタニティーブルー

マタニティーブルー は産後に起こる一過性の情緒不安定のことを指します。出産によってホルモンバランスが大きく変化することから、産後2日から3日後に抑うつや不眠、不安感などがみられますが、産後10日くらいになると症状が和らぎます。

産後の体が変化する原因

産後は体が妊娠前の状態に戻ろうとするため、大きくなった子宮の収縮や、ホルモンバランスの急激な変化が起こります。

ホルモン分泌の変化と一口に言っても、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロン 、骨盤を広げて赤ちゃんが産道を通りやすいようにするリラキシン 、炎症を抑えるステロイドホルモンなど 、それぞれ役割が異なるホルモンの分泌に変化が起こります。他にも体内の変化だけでなく、生活環境の変化から体の変化が起こる場合もあるでしょう。

育児のために同じような体勢を取ることが増えると体の痛みにつながったり、夜泣きに合わせて生活をすることになるため生活リズムが乱れやすくなったり、また慣れない育児によって精神的なストレスを感じることなどが考えられます。

産後の体のケア方法・対策

産後のつらさを経験すると、少しでも早く出産前の状態に戻したいと思うお母さんも多いかと思います。
ここでは、体をできるだけ早く戻すためのケア方法について説明します。

できる限り休息を取る

産後、気持ちが焦って「何かしなければ…」と思ってしまうお母さんもいるかと思いますが、「産後の無理は一生祟(たたる)る」と表現されることもあります。繰り返しにはなりますが、産後は体を休めることを第一に過ごしましょう。

無理をして動いたことが理由でメンタル面の不調につながったり、婦人科疾患を起こしたりする可能性もゼロではありません。

すでに出産という大仕事をした後なので、産後しばらくは休むことが仕事と割り切って、安静に過ごしましょう。ダイエットを始める時期などは、産後の1カ月検診で問題がないと判断されてからがおすすめです。

栄養バランスのよい食事を取る

産後は体を回復させることが大切なので、栄養バランスのとれた食事を取りましょう。授乳なども考えると、食事制限はせずに、栄養価の高い食事をすることが大切です。

具体的には葉酸・タンパク質・鉄分・カルシウム・DHA/EPAなどの摂取を心がけると良いでしょう。葉酸はほうれん草・ブロッコリー・納豆・いちごなどに含まれており、赤ちゃんのすこやかな成長やお母さんの貧血予防に役立ちます。

摂取が難しいと感じる食品は、担当医に相談の上、サプリメントを活用することを検討してみても良いでしょう。また、インスタント食品やお菓子などは栄養が偏りやすいため、摂取を避けた方が無難です。

産褥体操をする・骨盤ケアなどを受ける

産後すぐであっても、体調によっては産褥体操をすることが可能な方もおられます。気になる方は産院で相談の上、体操の方法を聞くと良いでしょう。

産褥体操は必ずしも負荷が高いものではなく、簡単なものであれば足先を少し動かすことでできます。しなければいけないものではありませんので、こちらも無理のない範囲で取り組むことが大切です。

整骨院などの治療院で受けることができる骨盤矯正などは、必ずしも受けなければならないものではありませんが、マッサージにより体の凝りや痛みが改善することもあります。産後の1カ月検診などで問題がないと判断されてから受けられる場合が多いようです。

周囲の人・サービスを頼る

少しでも体を回復させるために、家事代行サービスを利用して洗濯・掃除・料理などを助けてもらうことも検討しましょう。パートナーに家事をお願いしたり、近くに家族がいるなら頼れたりするかどうか相談することも大切です。

産後ケア施設は、助産師にお母さんの休息のために赤ちゃんを預かってもらったり、育児の指導を受けられたりする場所です。施設にもよりますが、赤ちゃんのお世話に加えて食事や洗濯など身の回りのことを代行してもらい、しっかり休息できるよう、さまざまなサポートが受けられます。自治体から補助が出ることも多いため、お住まいの地域で産後ケア施設を探してみるのもおすすめです。ただし、「生後6カ月まで」など期限を 設けている自治体もあるので、希望する方は早めにチェックしておきましょう。無理はせずに、頼ることができるサービスは積極的に活用してみると良いでしょう。

注意が必要なとき

産後にはさまざまな変化やトラブルがつきものですが、中には注意が必要なケースもあります。産後であれば、マタニティーブルーと思ったら産後うつに近い状態だった場合や、授乳と関連して乳腺線や、腹痛だと思っていたら子宮感染症だったというケースなどがあるでしょう。

マタニティーブルーは産後10日や1カ月ほどで症状が軽くなるものですが、産後1カ月を過ぎたころから1年ほど症状が現れる場合は産後うつの可能性があります。

乳腺炎は乳首の先からの細菌感染が原因で起こり、乳房が腫れたり、痛みや発熱を伴ったりします。なってしまった場合は排乳することが基本的な対処方法になりますが、痛みが強い場合や発熱した場合はすぐに産院に相談しましょう。体内で作られた母乳が外に分泌されないことで細菌が繁殖しやすくなるため、胸がパンパンに張ってくる前に授乳を行うことが大切です。
また、産後の子宮は雑菌が入り込みやすく感染症が起こりやすい状態でもあります。下腹部痛や悪臭のする悪露、発熱などがある場合は子宮感染症が、残尿感や排尿痛がある場合は尿路感染症などが疑われます。

これらに限らず、日常生活に支障がある場合や痛みなど気になる症状がある場合は、医療機関の受診をおすすめします。

まとめ

産後は体内だけでなく身の回りの環境においてもさまざまな変化が起こるものです。混乱することも多いかもしれませんが、産後間もない時期は体力を回復させることを優先して過ごしてくださいね。

赤ちゃんの成長のためにも、出産を頑張った自分のためにも、産後は休むことが仕事ですよ。

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

プロフィール

平成28年旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院などでの勤務を経て、総合病院やクリニックで産科・婦人科・生殖医療に携わっている。

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