【産後の体のケア】産褥期とは?体の変化や対処法を説明
産後の抜け毛はいつからいつまで?原因や対策を説明
2023.12.12
記事監修
阿部一也先生
日本産科婦人科学会専門医
多くのお母さんが経験する産後の抜け毛。
抜け毛の量が多くて元に戻らないと不安に思われる方や、いずれは戻ると思っても実際に排水溝が抜け毛でいっぱいになっているのを目の当たりにすると心配に感じる方もいるのではないでしょうか。
ここでは産後の抜け毛が心配な方に向けて、その原因や対処法・対策、最後に注意が必要な抜け毛についても説明します。
産後の抜け毛の特徴
産後の抜け毛がひどい とは聞くけれど、他のお母さんはどうなのか、また実際はどれくらい抜けるのか知りたい方もいるのではないでしょうか。
ここでは他のお母さんの声や、ヘアサイクルの知識、開始時期やピークなどについて説明します。
他のお母さんの声
「抜け毛が始まったのは産後3カ月くらいから」
「ピーク は産後の6カ月頃だった」
「ピークになると前髪のセットが決まらなくなった」
抜け毛が始まる時期やピーク時に関する声が多くありますが、時期は人によって多少の違いがあるようです。中には抜け毛がない人 もおられますが、いつもより多くなったと感じられる方が多いでしょう。
また一般的な抜け毛の量は1日あたり100本ほどですが、産後の抜け毛ではその倍以上になるとも いわれています。
ヘアサイクル
毛周期(ヘアサイクル)の基本的なことについても確認しておきましょう。
私たちの髪の毛は、発毛から丈夫に成長するまでの「成長期」、髪の毛が抜ける「退行期」、生え変わりを待っている「休止期」の3段階に分かれています。
女性の場合、一般的にはこのヘアサイクルが4年から6年ほどかけて1サイクル進み、生涯を通して繰り返されます。髪の毛全体のうち約8割から9割が成長期、退行期と休止期で残りを占めている といわれています。
始まる時期やピーク時
産後の抜け毛は2カ月から3カ月あたりから始まる方が多いようです。
また、抜け毛のピークは産後4カ月から6カ月といわれています。
産後3カ月はどんなことをしても赤ちゃんが泣き止まない「魔の3カ月」ともいわれる時期。育児が大変な時期に追い討ちをかけるように抜け毛が起こり始め、そこから2カ月から3カ月後にピークを迎えるため、身体的にも精神的にも大変だと感じるお母さんが多くおられます。
産後の抜け毛の原因
では、どのような原因で産後の抜け毛が起こるのでしょうか。
ここでは、ホルモンバランスの変化や慣れない子育てによるストレス、産後のダイエット、高齢出産などの出産に関連することから、喫煙にも注目して説明します。
ホルモンバランスの変化
妊娠により多く分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が産後の抜け毛に影響しています。
エストロゲンは女性らしい体作りや肌や髪のツヤに役立つホルモンで、プロゲステロンは子宮内膜を厚くして着床しやすくしたり、基礎体温を上げたりするホルモンです。
髪への影響では、エストロゲンには髪の成長期の延長やハリ・コシを出す作用があり、プロゲステロンには髪の寿命を延ばす働きがあります。
妊娠中に多く分泌されていたこれらの女性ホルモンのレベルが産後になると急激に減少するため、髪の毛への影響も急になくなり、休止期に入る毛が突然増えて産後の抜け毛につながるのです。
また「母乳 が出るようになるから抜け毛が増える」といわれることもありますが、医学的な根拠はないとされています。
慣れない子育てによるストレス
ストレスが自律神経に影響して交感神経が優位になると、血管の収縮が続いた状態になります。これにより髪の毛に必要な十分な栄養が届かなくなり、結果的に髪のダメージへとつながることになります。
育児が始まると夜泣きや授乳で睡眠不足が続き、気持ちや考え方に余裕がなくなるものです。
そのような状態で家事にも追われたり、育児が思い通りにできなかったりすると、ストレスを感じてしまい、抜け毛にも影響する場合があるでしょう。
ダイエットによる栄養不足
ダイエットや授乳などによって栄養不足になることが抜け毛の原因になっている場合もあります。産後の体型を何とかしたくてダイエットをされるお母さんもいますが、髪の毛はタンパク質からできており、日頃の栄養補給による影響を受けています。
また、産後は授乳によって赤ちゃんに栄養を分け与えているため、妊娠前の状態よりもさらに栄養補給が大切な時期といえるでしょう。
このように、ダイエットや授乳によって、髪の毛に行き渡る分の栄養が足りていないことが抜け毛の原因となるケースもあります。
高齢出産・難産
出産時に35歳以上の高齢出産だったり、難産になったりした方ほど、産後の抜け毛が多い傾向にあるようです。
出産は交通事故とも表現されるほど に体力を消耗します。高齢出産と難産どちらの場合も、産後の体力回復に時間がかかることが抜け毛につながる原因と考えられています。
喫煙
出産を終えたことや慣れない生活へのストレスからタバコを吸われるお母さんもおられます。しかし、タバコを吸うことで毛根周囲の血管収縮が起こり、髪の毛に栄養が届きにくくなることが抜け毛の原因となります。
また、副流煙が乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク因子として考えられていたり、タバコの有害物質が母乳を通じて赤ちゃんに移行したりすることもありますので、喫煙はできる限り控えておいた方がよいでしょう。
産後の抜け毛の対処法・対策
ここからは対処法や対策について説明します。
食事や睡眠、頭皮環境などの生活習慣と関連することから、すぐにできる対処法としてヘアスタイルについても触れます。
栄養バランスの取れた食事
髪の毛は普段私たちが食べるものによってできるため、栄養バランスの取れた食事が大切です。
特にタンパク質やビタミンB群、亜鉛といったミネラル類などが、髪の毛の成長に関係します。
タンパク質は髪の毛の主成分であり、大豆などの豆類・肉類・魚類・卵などから摂ることが可能です。
ビタミンB群には、皮脂分泌を抑えて毛母細胞の分裂を促進するビタミンB2や、髪の毛を構成するケラチンの合成をサポートするビタミンB6などがあります。豚肉やレバーなどの肉類、マグロやカツオなどの魚類から摂取が可能です。
タンパク質の生成に役立つ亜鉛は、卵や牡蠣、豚レバーなど に含まれています。
毎日食べるのが難しい場合や苦手な食材がある場合は、栄養補給の対策としてサプリメント やプロテインを活用するのがおすすめです。これらのサプリメントを使用しても授乳には影響しませんので、心配はないでしょう。
十分な睡眠
夜泣きや授乳などでとても難しいことかとは思いますが、十分な睡眠を取ることは健康だけでなく髪の毛にもよい効果があるものです。睡眠を取ることによって成長ホルモンの分泌が起こり、髪の毛の修復や頭皮の新陳代謝が行われています。また、ストレスの軽減も睡眠を取ることによって行われています。
子育て中は少しでも質のよい睡眠を取るために、これらの工夫をしておきましょう。
睡眠前はできるだけリラックスして過ごすことが大切です。しかし、休息を取るには、家族のサポート体制の調整も非常に重要だと思います。
・できるだけ布団で寝る
・寝る前はスマートフォンやパソコンを見ない(ブルーライトを避ける)
・家族を頼って睡眠時間を確保する
・昼寝をする
・寝る前は温かいものを飲む
・家族と相談し休息を取るように相談する
頭皮環境を整えること
育毛剤、敏感肌・乾燥肌用のシャンプー、頭皮の保湿のためのローションなど、頭皮環境を整えるためのグッズはたくさんあります。頭皮に直接栄養を届けたい場合には育毛剤がよいでしょう。
体質の変化によって頭皮が以前とは違う状態になる場合があるので、敏感肌用や乾燥肌用のシャンプーを選ぶこともよいでしょう。乾燥対策には頭皮用のローションもおすすめです。
また、頭皮マッサージによって血流のケアをすることもできます。指の腹を使って全体的に頭皮をほぐせば、顔のむくみケアもできるでしょう。
ヘアスタイルを変えること
抜け毛や薄毛が目立ちにくい髪型や分け目を変えることも対処法の一つです。ショートヘア・ボブ・ロングなど今までと違う髪型にすることによって、薄毛対策だけでなく気分転換にもなるでしょう。
ショートヘアならドライヤーや洗う手間を省け、ボブヘアなら作業時は結べてヘアアレンジも可能です。ロングヘアだと、美容院に行く時間がなくても大きく髪型が変わらないというメリットがあります。
ただし、紙を結ぶときには強くしばってしまわないように注意しましょう。牽引性脱毛症といって、物理的な引っ張りなどによって抜け毛が増加する場合があります。
産後の抜け毛で注意が必要なとき
産後の症状として一般的な抜け毛ですが、中には注意が必要なパターンもあります。
受診の目安から説明し、FAGAや円形脱毛症などの抜け毛と関連する病気についても触れていきます。
受診の目安
産後1年が経っても抜け毛が治らない場合は、かかりつけの婦人科・産科や皮膚科に相談することをおすすめします。
産後の抜け毛のピークは産後4カ月から6カ月であることが多いですが、産後12カ月までに生えてくる場合が一般的です。産後1年以上も抜け毛が続いている場合は、他の病気などが潜んでいる場合があるので、医師に相談しておいた方が安心でしょう。
FAGA
産後にFAGA(Female Androgenetic Alopecia:女性男性型脱毛症 )が起こる場合があります。最近ではFPHL(Female Pattern Hair Loss)とも呼ばれており、頭頂部や髪全体から抜け毛が起こっていくことが特徴として知られています。
40代から50代で起こる方が多い症状ですが、20代から30代の発症もある疾患です。原因には出産や加齢に伴うホルモンバランスの変化・睡眠不足・栄養不足・ストレスなどが挙げられます。
治療方法はいくつかありますが、内服薬や外用薬の処方が代表的です。不安な場合はかかりつけ医に相談しておきましょう。
円形脱毛症
円形脱毛症は、頭皮に円形や楕円形の脱毛が起こる疾患です。10円ハゲとも呼ばれています。症状の特徴は、抜け毛の毛根が尖っていることや軽く引っ張っただけでも毛が抜けること、毛が抜けても無痛だったり、脱毛部分と毛が生えている部分の境界がはっきりしていたりすることです。
軽症であれば脱毛する箇所が1つだけですが、症状が重くなると複数箇所にでき、重症だと最終的には全ての毛が脱毛します。自己免疫反応によって免疫が毛根を攻撃することによって起こると考えられており、ストレス・睡眠不足・過労・出産などがその原因として考えられています。軽度の場合は内服薬や外用薬によって治療をしながら、様子見をします。
脂漏性脱毛症
頭皮に赤みやかゆみ、フケ、ニキビ、発疹がある場合は脂漏性皮膚炎の場合が考えられます。脂漏性皮膚炎の原因は、マラセチアというカビの一種の増殖だと考えられています。マラセチアは皮脂をエサにして増えることがわかっているため、産後のように男性ホルモンが優位になって皮脂が出やすい頭皮環境は、脂漏性皮膚炎になりやすい状態といえるでしょう。
お風呂ではシャンプーのすすぎ残しが毛穴をふさがないよう、きれいに洗うことが大切です。シャワーと同時に頭皮マッサージもしておくと血行にもよいでしょう。治療にはステロイドや抗真菌薬の外用薬が処方されることが一般的です。皮脂分泌を抑えるためにビタミンB2やB6の内服が行われる場合もあります。
甲状腺の異常
甲状腺は喉仏にある4cmから5cmほどの臓器 であり、体温や自律神経の調節をして新陳代謝に関与しています。甲状腺機能が低下した場合は橋本病、亢進(こうしん)した場合はバセドウ病と呼ばれる病気であり、どちらでも脱毛が起こります。
これらの症状は、強い疲労感や倦怠感、寒気または暑さを感じる、体温の変化、動悸、むくみ、生理不順などです。20代から30代ではバセドウ病 、30代から40代では橋本病 が多いといわれています。
バセドウ病および橋本病とともに行われるのが薬物療法です。バセドウ病では放射性ヨウ素内用療法や手術などが行われることもあるかもしれません。ただし、橋本病であっても甲状腺機能が正常な場合は治療が必要ないこともあります。
まとめ
実際に抜け毛が多くなると心配に感じるかと思いますが、産後の状態に体が正しく反応している証拠ともいえます。ある程度は心配しすぎないことも大切です。
ただし、症状によってはかかりつけの産婦人科や皮膚科などに相談した方がよいケースもあります。気になる症状が脱毛以外にある場合や、産後から1年経っても治らない場合は受診した方が安心でしょう。
精神的にも肉体的にも大変なときに起こりがちな抜け毛ですが、髪型を変えて気分転換をしたり、家族と協力して過ごしたりと、新しい気づきがある時期かもしれません。
「いずれは治るもの」と思って、赤ちゃんの成長を楽しみにお過ごしくださいね。
記事監修
阿部一也先生
日本産科婦人科学会専門医
プロフィール
2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。