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出血なしでも注意!妊娠中期の下腹部痛・腹痛の原因や対処法

2023.08.26

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

「下腹部の痛みが気になる…、原因はなんだろう?」「胎動があれば大丈夫って聞くけど本当かな?」。腹痛があるときは、出血がなくても予想せぬ病気や赤ちゃんへの影響があったらどうしようと不安になりますよね。ここでは、妊娠中の出血を伴わない腹痛が気になる方に向けて、その原因や対策・対処法、注意が必要なときについて説明します。

出血がない下腹部痛の特徴

妊娠中期の下腹部痛は、チクチクしたり、ギューっとしたり、また、生理痛のような痛みや、右下腹部の痛み、張る感じがするなどさまざまです。出血がなければ妊娠に影響していることは少ないといえますが、中には注意が必要な場合もあります。

出血がない下腹部痛の原因

出血がない下腹部痛の原因には、ホルモンバランスの変化や赤ちゃんの成長によって子宮が大きくなること、運動のしすぎや胎動などが主に挙げられます。いずれも赤ちゃんが順調に育っていることが理由といえるでしょう。ここでは、それぞれの理由について詳しく説明します。

ホルモンバランスの変化

よくある原因として、ホルモンバランスの変化が挙げられます。ホルモンバランスが変化すると下痢や便秘が多くなり、それに伴って腹痛が起こるでしょう。

妊娠によって、女性ホルモンの分泌は多くなり、その中でも便秘と関係しているのが黄体ホルモン(プロゲステロン)です。

妊娠の維持に役立つプロゲステロンですが、体内の水分を吸収する作用や、流産や早産を防ぐために平滑筋の収縮を抑える作用、自律神経への作用もあることが知られています。

水分の吸収が排便にも影響するため、プロゲステロンによって硬い便ができることで便秘が起こることがわかっています。また、プロゲステロンによって平滑筋の収縮作用が消化管の運動も抑制してしまうことも便秘の原因として挙げられるでしょう。

また下痢については、黄体ホルモンが自律神経に作用したときが多いとされます。黄体ホルモンによって下痢と便秘を繰り返す方もいますので、このような原因から下腹部痛を経験する場合があるでしょう。

子宮が大きくなること

妊娠中期では、赤ちゃんの成長に伴って子宮も大きくなっていきます。子宮が大きくなるとチクチク、ズキズキしたような痛みが現れるでしょう。左右対称ではなく、片方の下腹部だけが痛む場合もあります。

これは子宮の外側にある円靱帯が引き伸ばされる痛みであり、円靱帯症候群や牽引痛と呼ばれています。

過度な運動

動きすぎたり、無理な姿勢を取り続けたりすると腹痛につながる場合があります。妊娠中は普段と身体の調子が違うため、予期せぬことで腹痛が起こる場合があります。運動によって出血にもつながる可能性がありますので注意が必要です。

胎動

赤ちゃんが小さいうちは影響がなくても、大きくなったときに恥骨やおなかの辺りを蹴られると下腹部痛と感じる場合があります。赤ちゃんが動き回ることで、靱帯が引っ張られて痛みを感じることもあります。

出血がない下腹部痛の対処法・対策

出血がない下腹部痛があったときの対処法・対策について説明します。

安静にする

仕事などで難しい場合もあるかもしれませんが、まずは安静にすることが大切です。落ち着ける場所に座り、じっとして、可能であれば横になりましょう。お茶など温かいものを飲んでリラックスして過ごすことも大切です。

また、おなかを強く締める服は避けましょう。服はマタニティ用のものを、腹帯は締めつけすぎないものがおすすめです。

食生活を整える

便秘になりがちな方は、食物繊維や水分を摂ることを心がけましょう。

上述の通り、ホルモンバランスの影響による便秘の原因は、水分不足と消化管の運動不足です。これらに対処できる方法を取るとよいでしょう。

食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維があります。不溶性食物繊維は便のかさを増すことに、水溶性食物繊維は便に水分を含ませることにつながります。

ただし、不溶性食物繊維は取りすぎると便のかさが大きくなりすぎて、便秘の方には逆効果になることもありますので、適度に取りましょう。

どうしても便秘がつらい場合はお薬を処方してもらうことも選択肢の一つです。便を柔らかくする薬や、大腸の動きを活発にする薬など、妊婦さんでも使えるものがあります。

生活面においては軽い運動をすることも効果的です。できる範囲からウォーキングなどを始めてみるとよいでしょう。

性行為は控える

妊娠中に気になる方も多いかと思いますが、下腹部痛などの不調や気持ちが乗らないときは性行為を控えましょう。おなかが張るときや安静の指示を受けているときなども控える方が妥当です。

また、おなかが痛くないときでも、コンドームを使用し、清潔な状態で行うことが大切です。精子には子宮収縮を促すホルモンが含まれています。深く挿入しようとすると子宮の収縮が起こる可能性があるため、お互いが負担なく、身体に優しい体勢を探してみてください。

出血が起こったり、おりものの様子がいつもと違ったりするときは注意が必要です。性行為をする気になれない方は旦那さんとのコミュニケーションを保つために、性行為はしなくてもボディタッチはするなど、お互いにできる範囲のルールを話し合うとよいでしょう。

出血がない下腹部痛で注意が必要なとき

出血のない下腹部痛でも、注意が必要な場合もあります。例えば、以下のような状態だと一度診察を受けた方がよいでしょう。

  • 痛みが強くて動けない
  • 冷や汗が出ている
  • 下痢や嘔吐、発熱を伴う
  • おなかの張りが強くなって下腹部が硬くなっている
  • 一定間隔で痛みが来る
  • 張りや腹痛の頻度が多い

出血のない下腹部痛は、安静にしてすぐ治るなら動いたり、仕事に行ったりしても大丈夫なことが多いのですが、上記の症状だと、休んで医師に相談することをおすすめします。下痢と一緒に嘔吐もある場合は胃腸炎の可能性もあります。

胃腸炎

腹痛だけでなく、嘔吐や下痢、発熱などが見られる場合は、胃腸炎などの感染症の可能性があります。

胃腸炎には秋から冬に流行しやすいノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス性、夏に流行しやすいサルモネラやカンピロバクターなどによる細菌性、また、不安や緊張によって自律神経の乱れが胃腸に影響するストレス性の胃腸炎があります。

胃腸炎自体は赤ちゃんに影響がありませんが、妊婦さんや赤ちゃんの脱水状態、腹痛や下痢による子宮収縮が早産の傾向につながるケースもあります。

胃腸炎で出血があるときは、肛門が傷つく程度なら大きな心配はいりませんが、血便などがある場合は、消化管からの出血が考えられますので、すぐに診察を受けた方がよいでしょう。

切迫流産

流産とは、妊娠22週未満で妊娠が終了することをいいます。そして、切迫流産とは、妊娠22週未満のときに痛みや出血によって受診した方で、流産のリスクがある状態のことを示します。

そのため、切迫流産は流産しそうなケースだけではなく、正常妊娠への回復が可能な場合を指す言葉でもあります。

切迫流産を疑う症状には腹痛(生理痛に似た痛み)や出血が挙げられます。重く張った感じがする腹痛には注意が必要です。また出血がなく、強い腹痛を感じる場合などもあります。

切迫流産には有効な治療方法はなく安静にすることが基本ですが、これらの症状がある場合はかかりつけ医に相談することをおすすめします。状況により、子宮収縮抑制剤や止血剤の内服を処方してもらうこともあります。

切迫早産

切迫早産は、早産期(妊娠22~36週)に子宮口が徐々に開いてきたり、陣痛のような規則的な子宮の収縮が見られたりして、早産になる危険性が高い状態のことです。

また、早産とは妊娠22~36週の間に出産することを指します。妊娠中期は16~27週あたりなので、妊娠中期の後半に差しかかった方には切迫早産の可能性があると考えられます。

切迫早産を疑う症状としては、腹痛や規則的なおなかの張り、出血、水っぽいおりものなどがあります。

ただし、腹痛や張り、出血を伴わない場合もある点に注意が必要です。この場合は妊婦健診時の経腟超音波検査で、子宮頚管長(赤ちゃんの出口)の短縮を認めることで気づかれることが一般的です。

切迫早産は早産の危険性が高くなりますが、症状の程度に合わせて適切な治療を受けることで妊娠を続けることが可能です。

治療には、切迫流産と同様に安静にしたり、子宮収縮抑制剤を使用したりします。内服での対応が難しい場合や子宮収縮が強い場合、出血が多い場合は、入院が必要となることもあります。この場合は、ベッドの上で安静にし、点滴の子宮収縮抑制剤や止血剤を使用することになります。

虫垂炎

出血を伴わない腹痛を起こす病気として、虫垂炎(いわゆる盲腸)が挙げられます。症状は、右下あたりの腹痛、真ん中にあった腹痛の移動、発熱、吐き気、食欲不振などですが、典型的な症状を示す方が半数近くと少ないようです。症状が4時間や6時間など続く場合は注意が必要です。また、初期症状として胃の痛みに似た、みぞおちの痛みから発症することもあります。

妊娠中は、大きくなった子宮によって虫垂が押し上げられるため、妊娠していない方よりも上の部分に痛みを感じることもあります。

虫垂炎は悪化すると腹膜炎になったり、虫垂が破裂したりすることもあるため、命に関わることもある危険な病気です。注意深く観察して、疑わしい症状があった場合は、一度かかりつけの医師に相談しましょう。

腎結石

腎結石や尿路結石は、腎臓や尿管にかけて結石が発生し、激痛を伴います。症状は主に、左右いずれかの側腹や背中、腰、下腹部の激痛、また血尿などがあります。

原因には、妊娠で子宮が大きくなり物理的に尿管が圧迫されると結石が発生しやすくなることが考えられ、右側に多くできる可能性もあるといわれています。また、妊娠で身体に負担がかかり、肥満や高血圧などの生活習慣病が悪化することも要因の一つです。

尿路結石になると流産や未熟児の出産が増える可能性があります。普段から水分をよく取ることや野菜を食べること、塩分は摂りすぎないことなど、身体によい生活習慣を心がけましょう。

症状が見られた場合は、まずはかかりつけの医師への相談し、必要時に泌尿器科の受診をしましょう。

まとめ

妊娠中期に起こる出血のない下腹部痛は、ホルモンバランスの変化や子宮が大きくなるなど、妊娠が順調であることが理由となっている場合がほとんどです。

ただし、今回ご紹介した病気のように、予期せぬ状態と関係していることもないとは言い切れません。普段からリラックスして過ごし、生活や食習慣を整えておきましょう。安静にしても治らないときは、気兼ねなくかかりつけの先生に相談してくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。