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妊娠中期の腹痛が心配...|原因・対処法・胎児への影響について

2023.08.01

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

妊娠16週から27週の妊娠中期あたりに、「ズキズキ」「チクチク」「ギュー」といった、おなかが痛むという方もいます。痛みの頻度が多かったり、強かったりすると「赤ちゃんは大丈夫かな……」と心配になるものだと思います。

ここでは、妊娠中期の腹痛で不安な方に向けて、腹痛のときに役立つ知識や、原因や医師を受診するまでの対処法、注意が必要な腹痛などを紹介します。気になることがあれば、かかりつけ医に相談することを念頭に予備知識として参考にしてください。

妊娠中期の腹痛が起こったときの行動

妊娠中期に腹痛が起こったときは、まずは冷静になることが大切です。万が一のときに備え、以下を頭に入れておきましょう。

  • 痛みや張りを感じたら横になるか、または座り、安静にする
  • 痛みが持続する場合は病院に相談

病院に行くまでの時間を要する場合は、痛みの性質や状態(例:生理痛に似ているなど)、痛む場所、強さ、持続時間、他の症状の有無などを記録しましょう。

安静にしても痛みが治まらない場合や不安がある場合は、早急にかかりつけの病院に連絡し、腹痛の状況を詳しく伝えてください。痛みが強い場合、不安がある場合、出血など他の症状が伴う場合は、早めにかかりつけ医に相談することが大切です。

妊娠中期の腹痛の原因

では、どのようなことが原因で妊娠中期の腹痛は起こるのでしょうか。原因はさまざまですので、医師の診断があるまでは、「これが原因」と特定をすることはできませんが、ここでは、妊娠中期における腹痛の原因の中から、2つをピックアップして説明します。

子宮が大きくなる

妊娠中期に腹痛を感じる原因として、子宮が大きくなることが挙げられます。赤ちゃんが成長するにつれて、子宮も大きく伸びていきます。その結果、周囲の組織や靭帯(じんたい)などに圧力がかかり、腹部全体が引き伸ばされることになります。

これにより、軽い不快感から鋭い痛みまでさまざまな形で現れ、妊娠中期の腹痛の一般的な原因となります。また、大きくなった子宮に押されて、胃や腸にガスがたまり、おなかが膨らんだ感じがすることもあります。

痛みの種類としては、ズキズキやチクチク、生理痛のような痛み、また、収縮や緩んだときのツーンとした痛みなどがあります。子宮は徐々に広がりますので、おなかの下の方や、片方だけなど、痛む場所が異なるのが一般的です。

ホルモンバランスが変化する

妊娠中期における腹痛の原因の一つとして、ホルモンバランスの変化が挙げられます。なぜなら、妊娠中はプロゲステロンという女性ホルモンの分泌が増えることで、ホルモンバランスが変化するからです。プロゲステロンは流産を防いで妊娠を維持するために分泌されるホルモンですが、胃腸の運動を弱くする作用もあります。

そのため、便秘や下痢になって下腹部痛につながったり、胃もたれによって胃のあたりが不快に感じたりすることがあります。

妊娠中期の腹痛を感じた後の対処法

妊娠中期の腹痛にはさまざまな種類があります。少しでも不安がある場合や腹痛が続く場合は、病院へ相談したり、医師の診察を受けてください。腹痛がすぐに治まった場合には、以下を参考にしてみましょう。

安静にする

ズキズキ、チクチクとする痛みや、生理痛のような痛みを感じた後も、無理をせずに安静にすることが大切です。このような痛みは、赤ちゃんの成長に合わせて子宮が大きくなることにより起きている可能性があります(※こちらはあくまでも一例です。医師の診断を受けない限り、腹痛の原因を断定することはできません)。激しく動いて体に負担をかけたり、精神面では心配し過ぎたりしないようにして、体を休めましょう。できるだけ横になり、体をリラックスさせて、過ごしてください。

体を温かくする

下腹部の痛みでホルモンバランスの変化からくる下痢の場合、根本的な解決策は水分補給、緩下剤や整腸剤の使用、腰痛であれば腹帯の使用などです。体を温かくすることで、気持ちが落ち着く場合もあります。また、腹帯を巻いたり布団をかけたりするのも、よいでしょう。下痢の症状が続く場合は、必ず医師に相談してください。

腸を整える

妊娠中は便秘に悩む方も少なくありません。便秘などによって腹痛を感じる場合もあるでしょう。便秘は、ホルモンバランスの変化によって腸のぜん動運動の低下によって起こる場合があります。こまめな水分補給で便を柔らかくし、食物繊維や乳酸菌の摂取を心がけましょう。食物繊維はリンゴやキウイ、海藻、キノコ類など、乳酸菌はヨーグルトや納豆から摂れます。

食事以外では軽いストレッチや散歩などの運動がよいでしょう。軽い運動は腸の動きを活発にするので、便秘の改善が期待できます。ただし、体に異変を感じた場合は、すぐに運動を中止してください。

便秘薬や整腸剤などは妊娠中でも使用可能なものがあります。便秘や下痢で悩んでいる場合はかかりつけ医に相談することも大切です。

注意が必要な腹痛・胎児への影響

妊娠中の腹痛は珍しくないことですが、腹痛の中でも、以下の4つには注意が必要です。
このような痛みを感じた場合は、すぐに病院で受診しましょう。

  • 性器出血を伴う腹痛
  • 今までにない激痛
  • 規則的な間隔で起こる腹痛
  • 腹部が非常に硬くなるような腹痛

これらの場合、切迫流産や切迫早産、常位胎盤早期剥離などといった緊急性の高い状態が隠れている可能性があります。

また、胎動があるなら腹痛があっても大丈夫というお話もありますが、必ずしもそうとは限りません。

ここでは、切迫流産、切迫早産、常位胎盤早期剥離について、詳しく説明します。

切迫流産

流産とは、妊娠22週未満で妊娠が終了することです。そして、切迫流産は妊娠22週未満のときに腹痛や性器出血が起きるなど、流産のリスクがある状態のことをいいます。

治療は子宮収縮抑制剤や止血剤の内服・点滴を使用します。症状の程度により異なりますが、痛みや出血が強い場合は入院が必要になります。

切迫早産

早産とは、妊娠22週から36週の間の出産を指します。切迫早産は、早産期に性器出血をきたし、子宮口が徐々に開いてきたり、陣痛のような痛みを伴う規則的な子宮収縮が見られたりといった、早産になる危険性が高い状態のことです。

妊娠中期の切迫流産と切迫早産は病態が似ており、治療などもほぼ同様ですが、症状の程度に合わせて、適切な治療を受けることで妊娠を続けられます。

治療は子宮収縮抑制薬(張り止め)を使用します。症状が軽ければ安静や内服で済みますが、性器出血が多く、子宮の収縮が強い場合は入院となり、点滴治療が必要となる場合もあります。

常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離とは、妊娠中に何らかの原因で子宮の壁から胎盤が剥がれることです。赤ちゃんと母親の双方に命の危険が及ぶ、非常に緊急性が高い状態です。

胎盤はへその緒を通じて、赤ちゃんに栄養や酸素を運ぶ器官を指します。胎盤が剥がれると赤ちゃんに栄養や酸素を運ぶことができなくなり、母体側では胎盤が剥がれたことによって大量出血の可能性があります。

常位胎盤早期剥離の症状としては、下腹部の痛み、おなかの張り、出血など切迫早産と似ているため注意が必要です。多量の出血がある場合に常位胎盤早期剥離を強く疑いますが、出血が少ない場合もあります。

常位胎盤早期剥離の自覚症状は、急な激痛の場合もあれば、持続的な痛みの場合もあります。また、おなかが非常に硬い状態になります。強い痛みや持続的な痛みがあり、おなかが硬い場合は、早めにかかりつけ医に相談しましょう。

妊娠中期の腹痛と他の病気との関連

妊娠中には、産科的な原因以外で腹痛が起こることもあります。少しでも不安なことがあれば、かかりつけ医に伝えましょう。

特に、おなかの張りや痛みは、盲腸として知られている虫垂炎や、大きくなった子宮が腎臓や尿管を圧迫することによる腎・尿管結石や水腎症が原因である可能性もあるため、注意が必要です。

虫垂炎は子宮収縮の痛みと似ていたり、妊娠によって虫垂の位置がずれたりするため、判断が難しい場合があります。おなかの右下あたりや、みぞおちからおへそあたりの痛み、6時間以上続く腹痛・吐き気・嘔吐(おうと)が特徴となっているので、気になる場合は受診しましょう。

まとめ

妊娠中期の腹痛について、起こったときに対応すべき行動や原因、対処法、注意すべき腹痛の種類、腹痛以外に起こりうる症状や病気について説明しました。

つわりが治まる人が多くなり、過ごしやすくなる妊娠中期とはいえ、子宮が大きくなることやホルモンバランスの変化が原因で腹痛や他の症状が起こるものです。

中には、早産や常位胎盤早期剥離などにつながる場合もありますので、ご自分の腹痛の特徴をできるだけ細かく把握しておきましょう。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。