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以前の私はどこへ? 子どもへの不安・悩みが離れず、戸惑いが続いた日々

2024.04.18

この人に聞きました

夏目 杏子(仮名) さん

20代・公務員5カ月の男の子

市役所に勤める公務員。育児休暇中で、保育園情報を集めつつ職場復帰の時期を検討中。出産直前に引っ越してきたエリアにはベーカリーが多く、パン好きなのでお店をめぐるのが楽しみ。


今のお住まいには出産直前に引っ越してきたという夏目さん。新しい地域での暮らしにも慣れ、お子さんとお出かけするのがとても楽しいと話してくれました。
そんな夏目さん、実は最近まで精神的にかなりつらい時期を過ごしていたのだとか。「妊娠・出産で自分がこんなに変わるなんで思いませんでした」そう話す夏目さんに、ご自身の変化についてうかがいました。


今までの自分とは違う、初めての精神状態。
私って楽観的な性格じゃなかったっけ?

妊娠期を振り返ってもらうと、初期に“食べづわり”になった以外は、体は順調だったという夏目さん。

夏目さん常に食べていないと気持ちが悪い“食べづわり”になったのは予想外でした。
でもその他は、一般的に想像される妊婦としての体のつらさ、生活の不便さはありつつも、身体面ではわりと順調なマタニティ期だったと思います。

安定期に入り母子健診の結果も順調だったそうですが、しだいに自分の中にある変化が起きていることを感じるようになったそうで……。

夏目さん私、もともとあまり悩んだりしない楽観的な性格なんです。深く考え込んだり、ネガティブになったりっていうタイプにはほど遠くて。妊娠・出産も、大変なことがあっても楽しむんだろうなって想像していました。
それが実際は全然ちがって、自分の変わりように驚きました。
まず、妊娠した人って誰でも赤ちゃんの成長にふと不安を覚えることがあると思うのですが、私は「ちゃんと育ってくれているか」という不安が離れず、どんどん大きくなっていったんです。

自分は他のママ達よりも不安がっているのかもしれない。夏目さんがそう考えるようになったのは、お腹にいる赤ちゃんの心音を聞かないと安心できなくなった時でした。

夏目さん毎日不安で、赤ちゃんの心臓の音が聞ける胎児用の心音計を購入し、頻繁にお腹にあてていました。ちょっと不安がりすぎているかな、と自分の行動に引っかからなくもなかったですが、心の安定のためには欠かせず……。
ほかにもささいなことに怖さを覚えて、神経質になった自覚がありました。

確かに、個人で心音計を使う人は少数派かもしれませんが、不安な気持ちが落ち着くなら大いにアリだと思います。
しかし、夏目さんの不安を抱えがちな精神状態は、無事に出産を終えてからも続きました。

夏目さん出産して子どもと過ごせるようになったら、不安な気持ちは落ち着くかと思っていました。でも違いました。子どものことになると、どんなささいなことでも頭を抱えるほど悩むようになってしまったんです。

夏目さんいわく「不安になりやすい自分は、産後から加速した」そうで、お子さんの成長に特に問題がなくても、少しのことでも不安・落ち込みを抱えてしまうようになりました。
そして産後2カ月の頃から、今までの人生でいちばん苦しかったという精神状態が続き、今回インタビューをする数週間前にようやくつらい時期を脱出できたのだとか。

夏目さん初めての育児なので慣れないのは当然だし、子どもの成長は一人ひとり違うって頭では分かっているんです。でも「このやり方で大丈夫かな」「この状態って問題ない?」と何でも不安になって、解消できないまま積み重なっちゃいました。
いちばん悩んだのが体の発達についてです。うちの子、同じ月齢の子に比べて小柄で体重が軽いんです。そのことにずっと不安が消えなくて「また体重が増えてない……」って鬱々としていました。
こんなに精神的に不安定になることって今までなくて、自分で気持ちがコントロールできずにつらかったです。

どん底気分が続いた約2カ月間。
浮上できたきっかけは、外との繋がり

夏目さんの “どん底状態”は約2カ月間も続きました。気持ちが浮上したきっかけとは、何だったのでしょうか。

夏目さん大きなきっかけは、外との繋がりです。
最近、行政の産後ケア事業を初めて利用しました。産後ケア事業っていうのは、お産と育児に疲れている人や、育児を手助けしてくれる人がいなくて困っている人などをサポートしてくれる取り組みです。
私の住む地域だと宿泊型とデイサービス型があって、赤ちゃんを預かってくれるので、休息と育児相談のために利用しました。その時に助産師さんや看護師さんに話を聞いてもらえたことで、すごく気が楽になったんです。
あと、近所の小児科がママ向け教室や助産師外来を実施していて、それもすごく助かっています。

夏目さんは印象的だったエピソードとして、小児科でのママ向け教室で、他のママさん2人と同じグループになった時のことを話してくれました。

夏目さんママさんは2人とも第二子を出産したばかりの方たちでした。
その時に夜泣きのこととか、毎日うんちが出ないとか、不安だったことをポツポツ話したら、ママさんたちは不安な気持ちに共感してくれて、経験に基づいてアドバイスをくれて。
お手本どおりじゃなくても大丈夫、子どもはちゃんと育つよって言ってもらえたことが心を軽くしてくれました。
結局、悩んでいた体重についても「うちの子は小柄なんだな」って納得して、気持ちが落ち着きました。

身近なご友人では、まだ出産している人がいないという夏目さん。実感のこもったアドバイスが得られた時にやっと安心できたそうです。

夏目さんインターネットの情報もいいですけど、両極端な内容を目にすることもあるし、私はネット記事で一喜一憂してしまうたちなので。
助産師さんや専門スタッフの方の確かな情報と、直接聞くリアルな声が最も納得できました。今は小児科のママ向け教室や、市が実施する育児系イベントをチェックするのが楽しみになっています。

また、落ち込んでも毎日を頑張って過ごせたのは、旦那さんの存在も大きかったそう。

夏目さん夫は私が起きる前に家を出て、寝る頃に帰ってくるような忙しい人です。
だから平日は基本的にワンオペ育児なんですが、一緒にいる時は積極的に育児してくれる。私の体調が万全じゃない時なんか、「今日は母乳はやめておく?僕がミルクあげるよ」って積極的に提案してくれて、頼もしく感じています。
日中の連絡もこまめで、気持ちの上ですごく助けられました。たとえば「お昼寝、なかなか寝ついてくれない」という泣き言に、「どうしたんだろう、眠くないのかな。大丈夫かなあ」って、一緒に心配してくれる返信があるだけで少しホッとできるんですよね。

気に病みがちだった時期を脱出。
今は育児の楽しさを味わっています!

献身的に寄り添ってくれる旦那さんの支えもあり、大変だった時期を乗り越えた夏目さん。今、心から楽しいと思える時期を送っています。

夏目さん苦しいばっかりだった期間が去って、ようやく育児の楽しさを堪能しています。
最近の大きな楽しみは、スマホアプリに成長の記録をつけていて、それを見返すこと。
「今日は“自分の手”を発見して不思議そうに見ていた」とか「寝返りができるようになった」とか、何度も見返して一人で幸せに浸っています。

どのママもパパも、初めての子育てが始まれば、経験したことのない悩みやつらさに行き当たることがある。それでも、それ以上のたくさんの喜びが待っていますよ、と夏目さんは語ります。

夏目さん私の場合、心配ばかり高まって、勝手につくった“正解の範囲”にとらわれていました。
身長や体重の平均数値、育児のノウハウや赤ちゃんの反応……マニュアルどおりなら安心できるって思い込んでしまって、でも少しでもズレるとつらい気持ちになるんですよね。「平均より体重が軽い/重いのはなぜ?」「他の子は違うのに」って。
でも今は、だいたいのことは問題なければそれで適当でOK! と割り切れるようになりました。

子どもの成長ってほんとうに一人ひとり違う。それを実感できたことが、気持ちの余裕に繋がったと話します。

夏目さん1つ思うのが、心配しがち、不安になりがちなのは、もはや私の新たな性格なのかもしれないということです。(笑)
そう考えると、今後も育児で思い悩むことがきっとまたあるでしょう。
でも、正解を決めつけないこと。必要以上に神経質になるとしんどいだけだということ。今回のつらかった経験を覚えておいて、次は負のスパイラルに入り込まないようにしたいです。
子育てってほんとうに楽しいし、素晴らしい。だから、つらいこともポジティブな姿勢で乗り越えつつ、私も子どもと一緒に成長していきたいです!

文 Atsuko Yoshimura
写真 Kyoto Tanaka

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