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「うちのペース」は自分たちでつくる。そう気づけた時、夫への感謝が生まれ気持ちもラクに

2024.01.19

この人に聞きました

山中 葵衣 (仮名) さん

20代・会社員8カ月の女の子

大阪の企業に勤める会社員で現在は育児休暇中。来春、子どもが保育園に入園できたら職場に復帰する予定。最近の楽しみは、子連れOKなレストランを探して週末に家族で食べに行くこと。


日中はワンオペ育児が多いという山中さん。旦那さんは仕事が忙しく、平日に家族でゆっくり……という時間はなかなか難しいそうです。
そんな毎日に、旦那さんに対してずっと「もっと育児に参加してもらえたら」と思っていたものの、その考えが最近変わったそう。
「自分の考え方が少し違ったのかなって。今は夫に感謝しています」と話す、その心境の変化はどのようにして訪れたのでしょうか。


子どもと2人の毎日は、思っていた以上に楽しい!

山中さんにインタビューしたのは、秋も深まり朝晩冷え込む日が増えてきた頃。
「今、保育園に来春の入園を申し込んで、合否の結果待ちなんです。もし入園できなかったら育児休暇を延長する予定で」という山中さん。今は少しずつ感情表現が豊かになってきた娘さんと、じっくり向き合う日々なのだとか。
出産前は「息が詰まることもあるのでは」と少し不安もあったそうですが、想像と違った、と話します。

山中さん平日の日中は私と子どもだけで過ごしていますが、思ったより孤独じゃないって感じます。
というのも、けっこう気分転換になるチャンスがあるんです。
夫は仕事の付き合いが多い人で、週に1回くらい飲みに行く日があります。そんな時は近くの実家に帰ることにしていますし、家の近くに地域の子どもセンターが2つあるから、週1回ずつくらいを目安に行っています。
あと最近、ベビースイミングに通い始めたんです。私自身も体を動かせて気持ちいい。疲れますけど心身リフレッシュできていい感じ。家でボーッとしている時間があんまりないのが、私にとっては精神衛生上いい感じをキープできている秘訣かもしれません。

たしかに、外出するきっかけがないと家にこもりがちになってしまいますよね。
ご自身で機会をつくって出かける。それが家の時間も外の時間も新鮮に感じられるグッドバランスをつくっているんでしょうか。

「育児って大変だな」
実感のこもった言葉に救われた日

山中さんの旦那さんは商社にお勤めで出勤が基本。忙しい職場で、出産前から平日のワンオペ育児は確定していました。
そして歴史の長い会社というのも関係しているのか、ちょっと古風な社風のようです。社員どうしの親睦や接待で、突発的な飲み会が週に複数回発生することもしばしば。山中さんは「男性が育児休暇を取る空気はまだ浸透していないみたいです」と話します。

山中さん夫婦2人の時は、急に「今晩飲みに行ってくる」と言われても全然OKでした。
もともと私も夫もお酒や飲み会の場が好きだし、特に夫は仕事上のお付き合いもあるので「行かないでほしい」とはあまり言いたくないんです。

しかし、お子さんが生まれたとなると山中さん側の事情も変わります。

山中さん私も初めての子どもで育児に精いっぱいの毎日。急に帰宅の予定を変えられると、お風呂に入れられないなんてことも発生します。それは困るので、事前に予定を教えてもらって、急な飲み会はできるだけ控えてほしいと伝えました。
確かに断りづらい部分があるのも分かるんですよ。でも、参加回数をだいぶセーブしてくれるようになって、「子どもをお風呂に入れるから」って言って帰ってきてくれている。今はそれが当たり前になってとても助かっています。

はじめの頃こそ「飲み会を断るなんて難しい」と旦那さんも消極的だったそうですが、今では特に気負う様子もなく予定どおり帰宅してくれるそう。
山中さんは、もしかするとあのことがきっかけかも、とエピソードを聞かせてくれました。

山中さん一度、私が発熱して4日間寝込んだことがあったんです。
実家の母にも来てもらったりしたんですが、丸一日、夫だけで赤ちゃんを見てくれたことがあって。その時に「これは、毎日お世話するの大変だと思った」って言ったんです。
ふだんは私が子どもに付きっきりなこともあって、夫本人は“大変な部分”を経験するタイミングがなかなかなかったんでしょうね。
だから、本人は何の気なしに言ったと思うんですけど、「ああ、この大変さを分かってくれたんだなあ」って救いになりました。

自分の周りと、夫の周囲の環境。
違うって気づけたら視界が開けた

旦那さん、赤ちゃんと2人きりで長時間過ごしたことで、初めて「赤ちゃんがいると生活が思うようにいかない」という大変さを実感されたようです。それからは旦那さんがより育児に協力的になり、山中さんも気持ちがラクになったのだとか。

そして山中さん、「今はさらに、旦那ありがとう! って気持ちが大きくなっています」と話します。
実はご自身も、考え方が大きく変わるきっかけがありました。きっかけは、今年の夏にご家族で旦那さんの会社のバーベキュー大会に参加したことでした。

山中さん夫の同僚女性が教えてくれたんですが、夫って会社では「部内随一のイクメン」で通っているらしいんです。驚きました。「え、あれでイクメン!?」って。私としては、もっと協力してよ~っていう思いがありましたから。
でも、聞けば部内の年長者の方々には「男性がしっかり稼いで、女性は家を守って」という考えの方も多いとか。
それが良い悪いじゃなくて、そんな中で「子どもをお風呂に入れるので帰ります」と言って帰宅したり、接待以外の飲み会の参加を極力減らしたりという夫は、かなり珍しいんだそうです。

思いがけない旦那さんへの評価に山中さんは驚きました。そして、大いに反省したそうです。

山中さん夫なりに私と子どもに寄り添ってくれていたんだなって、申し訳なくなりました。
私の周囲には、旦那さんが何カ月も育休を取れたり、在宅で仕事していたりっていう友人が多いんです。そういう友人たちは夫婦で育児するのが当たり前みたいな雰囲気で、それが羨ましくもありました。そして、知らず知らずのうちにそれがスタンダードだって思い込んで、自分の環境と比べてしまっていたんだと思います。
夫に対して「全然手伝ってくれない」「もうちょっと協力してよ」「もうちょっと変わってほしいよ」って思ってしまっていました。
私たち夫婦のスタンダードな形なんて、私たち自身でつくっていかないといけないのに……。

最近は、男性の育児休暇や夫婦で育児することが珍しくなくなってきました。山中さんは特にそういう環境のご友人が多かっただけに、「うちの家族はどうして違うんだろう?」と思ってしまったようです。

山中さんでも夫は、環境が許す限り……というか、周囲からちょっとはみ出してでも家族のための時間を確保すべく奮闘してくれていた。逆に夫の周りだと、小さい子どもがいるからって早く帰宅したり付き合いを断ったりっていうことが珍しいみたいなんですよね。
自分の当たり前と、旦那の当たり前が違うって、想像できていなかったんです。

お互いが認識する「当たり前」が、実は違うのでは?
そう気づいた時に、旦那さんがかなり頑張ってくれていることにも気づいたという山中さん。

山中さんやっぱり、夫婦2人で同じくらい育児に参加できるのは理想と言えば理想です。でも、私は夫と家庭をつくりたくて生活しているんだから、夫自身と向き合って2人で「うちの家庭」をつくらなきゃなって。
思い返してみれば、夫は平日子どもと接する時間こそ短いですが、おむつも替えるしお風呂に入れるし、泣いていたらあやしてくれるし。夫なりに頑張ってくれているって気づいて、すごくありがたさを実感しました。
夫自身、ガマンしてくれているところもあると思うので、もう少し子どもが大きくなって、お互い自由にできる時間が増えたら飲み会なんかも行ってくれたらいいなって思える余裕ができました。

やはり初めての出産に育児、大変なことがいっぱいあって、当事者だと気付きにくいことってありますよね。

後になって分かることって、あります

山中さんはもう一つ、「今思えば」というお話を聞かせてくれました。
出産後にご実家に里帰りした時のこと。初めての育児に気負うあまり、ついつい頑張りすぎてご両親に素直に頼れなかったようです。

山中さん出産退院後、そのまま実家に帰って1カ月くらい過ごしました。初めから赤ちゃんと2人きりじゃないことに安心できたんですが……。
当時、産後ハイみたいになっていて「この子は私が面倒をみないと!」「はやく育児スキルを身につけないと!」って張り切る気持ちがすごく強かったんです。
母からは何度も「そんなに1人で頑張らなくていいよ」って言われたんですが、当時の私はなぜかそれが気に障ってしまった。
「初めての育児だし、しんどくて当たり前。でもイヤなわけじゃないんだから、そっとしておいて」ってトゲトゲした気分になることがありました。

ご自身でも不可解な心境のまま、せっかく里帰りしたのに、お母様に赤ちゃんのお世話を任せることがあまりなかった、と語ります。そんな山中さんを、お母様は心配そうにしつつも優しく見守っていらっしゃったそう。
日頃は仲良しだという山中さん親子。里帰りから半年ほど過ぎた頃、山中さんの暮らしも落ち着き、お母様と当時のことをお話しする機会がありました。

山中さん母から「せっかく里帰りしているんだから、ゆっくり過ごしてほしいと思っていた」って聞いて恐縮しました。
今になると、産後のホルモンの影響もあっただろうし、気負いすぎていたのもあるなって冷静に考えられるんです。でも、当時は本当に余裕がなかったんですよね。
母もそれを分かってくれて、父にもフォローを入れてくれていたみたいです。

両親には頭が上がりません、と苦笑いの山中さん。
最後に、これから出産を迎える方に向けて「とにかく思い詰めないこと、自分の気持ちがラクになるように過ごすことが大事だと思います。頑張りすぎず過ごしてくださいね」と話してくれました。

文 Atsuko Yoshimura
写真 Kyoto Tanaka

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