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何が正解? 初の育児に悩み続けた私が「これでいい」にたどり着くまで

2023.08.04

この人に聞きました

野上 阿希子(仮名) さん

30代・会社員5歳の女の子

和歌山県出身。Web&紙媒体のデザイナー。出産前はフルタイム勤務、産休明けからは時短勤務中。最近お気に入りの育児グッズは、外出先でも子どもを安定して座らせられるチェアベルト。

今回ご登場いただくのは、5歳の女の子を育てる野上さん。
「夫や両実家のサポートがあり、子育て環境は恵まれています」と話す野上さんですが、それでも初めての出産・育児に悩みは尽きず、中でも多かったのは「何が正解か分からない」と迷路に入り込んでしまうパターンだったとか。
焦る気持ちにようやく一段落つけたのは、娘さんが3歳の頃だったそう。
これは多くのママさんのあるあるかも、ということで、これまでを振り返っていただき「なぜ悩み、どう解放されたのか」を伺いました。

世代間の違い? 考え方の違い?
身近な人のアドバイスで板挟みに

「もともとは楽観的な性格なんです」と笑顔を浮かべる野上さん。初めての出産を控えていた当時も、経過が順調だったことから、自分に対してあまり気を使っていませんでした。

野上さん里帰り出産でしたが、ギリギリまで仕事をして産休目前で実家に帰りました。出産前後のママの生活について調べることもほぼなく、出産・育児をちょっと甘く見ていたところがあるなって思います。ただ、出産時にお世話になった実家近くの産院で「インターネットで調べすぎて不安になっちゃう人もいる」と聞いて、情報を知りすぎるのもよくないのかなと納得したんですね。

出産後はご実家に戻り、お母様とお祖母様のサポートを受けながら過ごしていた野上さん親子。当初は1カ月程度の予定でしたが、娘さんの皮膚が弱くケアが必要で、安定するまで3カ月ほどの滞在となりました。
そしてその間に、思いがけない状況が野上さん自身に降りかかります。たびたび40度近い高熱を出し倒れるようになってしまったのです。

野上さん当時はそれが異常だとは思わず、いつもヘロヘロの状態で「産後すぐの体調ってこんなに大変なの!?」と愕然としていたんです。高熱が出ると眠れない、かといって起き上がることもできない……みたいな。
後から分かったことですが、胸の傷口から細菌が入ってひどい乳腺炎を起こしていました。すぐに産婦人科で相談すればよかったのですが、当時は通院せずにいて。というのも、母から「できるだけ病院や薬には頼ってほしくない」と言われていたんです。

お母様の言葉は、野上さんが母乳で育てていたため、赤ちゃんへの影響を心配してのことでした。

野上さん私はつらかったので薬に頼りたい気持ちがありました。でも母親は意見をハッキリ言う人で、私も初の育児で余裕がなく「そういうものかな」と受け止めてしまい、なかなか考えを整理できず。病院へ行きたい気持ちと母のアドバイスに反する後ろめたさとで、板挟みになってしまったんです。

お母様がよかれと助言なさっていたことは、野上さんのお話からも十分伝わってきました。しかし何事も時代とともに状況や常識が変わるのは当然のこと。
結局、野上さんは自宅へ戻ってからも病院へ行かずにやり過ごしていましたが、いよいよつらくなって出産前に通っていた産婦人科で診てもらうことを決めます。

野上さん医師の方から「どうしてもっと早く受診しなかったの」と怒られました(笑)。最近は母乳に影響の出ないお薬があるし、早く治した方が子どもも安心できるんですよと言ってもらえて。
そこで初めて「あ、そういう考え方があるんだな」ってホッとしました。
今の時代は安全にケアすることが可能で、私がその情報に追いついていなかったから判断が遅れちゃったんですね。自分の中の判断基準があいまいだったこともあって、何を良しとするかが分からなくなっていた気がします。
こういうことって、初めて出産経験を迎えるママさんにとっては特にあるあるかも知れません。

初めての出産・育児に、知識の引き出しは少なくて当たり前。だからこそ「あれ?」と思うことがあったら、できるだけたくさんの人、特に専門家に相談してみるといいですよと話してくれました。

「自分が納得する基準でいい」
そう気づくまでがつらかった

赤ちゃんのお世話や食事について、何がいいと思うかは人それぞれ。乳腺炎の一件では、身近な人の1つの意見にとらわれてしまったがゆえの経験だったと言えます。野上さんは続けて、たくさんの情報を気にしすぎたゆえの経験を語ってくれました。

野上さんインターネットで子育てについて調べると、お悩み系の深刻な話題からSNSのきらびやかな投稿までいろんな情報が目に入ってくると思います。たとえば写真の華やかな育児風景を見て「すごいなあ」で終わればいいんですけど、いっときの私は、SNSを見るたび落ち込むことがありました。憧れるほど「こうあるべきだ。でも私はこんなにできていない」と自分を追い込んでしまっていたんですね。これも保護者あるあるではないでしょうか。

そういう状態からどうやって抜け出したかといえば、解決法は「他人と比べない。でも参考にはする」という新たな境地だったそうです。

野上さん新米ママパパは、育児で困ったときに具体的な対処法が書かれた記事を探すと思うんですよ。でもドストライクな回答がヒットすることってあんまりないんです。
私の場合は、調べる回数が増えるほどうちの子が当てはまらない点に気づけるようになって、目が覚めた感じ。そして「よく見かける情報=そうあるべきスタンダード」と考えるのを止めました。

例として話してくれたのは、娘さんのイヤイヤ期について。
1歳の頃から自我が強かったという娘さん。離乳食を何種類か用意すると、まだしゃべれないのに「まずこれ。次はこれ」と指さしで意思表示をするほどだったとか。今も周囲のママさん達から「自分の気持ちをハッキリしゃべれてすごいね」と言われることが多いそう。

野上さんコミュニケーションが取りやすい反面、納得するようにきちんと説明しないとダメなところがあって。イヤイヤ期も強烈だったんですが、「何がイヤか」がはっきりしているだけになだめるだけではダメで、本人が納得できるように説明することが大変でした。当時のネットでは、そういうケースの具体的な対処法が見つからなかったんです。どうしてうちの子だけこんなに……?って戸惑いました。

野上さん結局「うちはうちで良いんだな」って思えるようになったのが、娘が3歳くらいになったくらい。今でこそ当時の自分が情報に振り回されていたと冷静に捉えられますが、インターネット情報の呪縛から解放されるまでって結構長かったですよ。
育児期間は少し特殊な期間というか、世間との繋がりが希薄な状況で暮らすお母さんって多いと思うんです。心の余裕もなくて、視野が狭くなりがちで、こうと思い込んだらそれ以上動けなくなっちゃう。そういう経験は誰しもどこかであるのかなって、今なら分かります。

視野が狭くなりがちというのは、育児に一生懸命になることと表裏一体。歯がゆいところですね。野上さんが育児について「うちはうち」と落ち着いたのには、地域活動で出会ったママさん達との交流も影響していると言います。

「皆が個性豊かでいいな」
地域誌の制作メンバーに救われた

野上さん子どもが3歳になったくらいから、地域情報誌の制作をお手伝いしています。そこで出会った仲間たちに救われました。制作メンバーはお子さんのいる女性が多いのですが、どのお母さんも子どもさんもいつもイキイキしているんです。何かいい方法があるのかと育児方法を聞いてみると、返ってきた答えは皆バラバラで個性豊か。
育児って親子ごとに違うとよく聞いていたし、そうなんだろうなくらいに思ってはいましたが、実際にいろんなご家族を間近で見て「本当に違うんだ!」とつくづく実感したというか(笑)。そして安心しました。

娘さんが通う保育園では、フルタイム勤務よりもパートタイマーとして働くお母さんが多く、子どもと過ごすことに時間を割いている方が多いそう。一方でご自身はフルタイムに近い環境で働いていて、子育てを保育の先生方に頼りがちな気がする。そこに少しだけ、引け目のようなものを感じていたと言います。

野上さんでも編集部の皆さんはフルタイムの人もいればフリーランスの人もいるし、自営業の人もいる。皆さんの姿に世界が広がったし、大切なのは一緒にいる時間じゃなくて、子どもに寄り添えることなんだなって思えたんです。
「正解のルートって一つじゃない」と思えたことは大きな転機でした。
世の中の意見や自分の思い込みに振り回されている。そう気づいてからは、気持ちがとっても楽になりましたから。

私自身の変化が、家族の雰囲気にも影響

野上さんの心境の変化は、ご家族にもいい影響を与えることになりました。

野上さん夫は家事育児にとても協力的な人なのですごく救われています。でも以前は私がピリピリしていると娘がイヤイヤを発症してしまって、その負の連鎖が発端で夫と言い合いになることがちょくちょくありました。
それが私の気持ちに余裕が出てからは、娘の気持ちに寄り添うコミュニケーションができているのかな。家族間のいさかいがすごく減ったんです。娘が「どうして伝わらないんだ」って窮屈そうに苦しむ回数が減ったのは、特に嬉しい変化です。

野上さんは「環境に恵まれてラッキーだった」と振り返りますが、お話を聞いていると行き詰まった時に視野を広げてみたり、逆に自分の考えに正直になってみたりと、思考のバランスを取ろうとしてきたことが道を拓いた印象を受けます。

野上さんまだまだ子育ては続くわけですが、初めての育児の何が大変かというと、まず自分が納得できるスタイルに落ち着くまでが大きな山場でした。胸を張って「よそはよそ、うちはうち」と思えるのって、子どもとの関係に自信が持てる状況になってからだと思います。私自身トライ&エラーを繰り返して、娘らしさをようやく知ってきました。そして「これでいいんだ」ってある程度思えるようになりました。
今の境地にたどり着けたのは、いろんな方の育児を身近に見てきたからで、そう考えると、「いろんな子育てがある」と心の底から納得する体験って大事かもしれません。

いろんなお話を聞くことは自らの耐性も高める、と野上さんは語ります。

野上さん困っている最中に「視野が狭くなっているな」「周りを気にしすぎだな」と気づくのはなかなか難しいことではありますが、偏りすぎると自分がつらくなってしまいます。一つアドバイスするとすれば、自分にとってより良い選択ができるのは自分自身であることを忘れないでほしいです。
その上で専門家の方や先輩ママパパ、いろんな方にお話を聞く。これから初めての出産・育児を迎えられる方が、このお話を頭のどこかに置いてくださると嬉しいです。

文 Atsuko Yoshimura
写真 Junya Tanaka

最近のベストショット

家族で海へ行った時の一幕です。

2人が浜辺でしゃがみ込んだので一緒に遊ぶのかと思いきや、それぞれ砂の作品作りに没頭。その姿に「似た者親子だ」と笑ってしまいました。