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【産後の膝の痛み】原因・対策・ストレッチなどについて説明

2024.01.17

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

「膝が痛くて座ったり立ったりするのがつらい」
「産後に膝が痛むなんて知らなかった」

産後のトラブルの一つである膝の痛み。中には痛すぎて立ち上がれないという方もいるのではないでしょうか。

ここでは産後の膝痛について、その特徴・原因・対策・注意が必要なときなどについて説明します。

産後に起こる膝の痛みの特徴

産後は、体や環境の変化からさまざまな変化が体に表れます。腰痛や体力の低下、倦怠感、肩こりなどのトラブルと一緒にされるのが、膝の痛みです。育児のときには、子どもを抱き上げたときやおむつ交換のときに膝をついたときなどに痛みを感じる方が多いでしょう。個人差がありますが、膝の痛みを感じやすいのは産後1カ月~2カ月あたりといわれています。

産後に起こる膝の痛みの原因

まずは産後の膝の痛みについて、その原因を説明します。
ここではホルモンバランスの変化や、育児に伴う動作、また、姿勢の変化などについて説明します。

ホルモン分泌の変化

妊娠中は体重の増加とともに膝への負担が増加し、膝の炎症が起こりやすくなります。

ですが、妊娠中に分泌が増えるステロイドホルモンの働きによって炎症が抑えられるため、膝に負担がかかっても痛みを感じにくくなっています。出産後はステロイドホルモンの分泌が少なくなるため、膝の痛みを感じやすくなります。

立つ・座る動作の増加

育児によって立ったり座ったりなどの動作が増えます。出産前は安静にしていることが多かったのに対し、産後は赤ちゃんのお世話をしなければいけないため動くことが増えて、結果的に膝への負担が増えてしまうのです。

また、産後は体重の増加と筋力の低下が同時に起こっている時期でもあります。この状態で膝の屈伸運動などが増えると、自分が思っている以上に膝に負担がかかっていることが予想されるでしょう。

抱っこによる負荷

実は、歩いているときには膝に体重の2倍~3倍の負荷が かかっており、階段の上り下りのときには6倍~7倍に近い負荷が かかっているといわれています。

仮に赤ちゃんの体重が3kgだとすると、抱っこして歩くだけで普段よりも9kg多い負荷がかかる計算です。抱っこした状態で膝の屈伸運動や階段の上り下りが加わると、より大きな負荷がかかることも容易に想像できるでしょう。

無意識な動作であっても、膝に大きな負担がかかっていることが産後の膝痛の原因になるといえます。

姿勢の変化

赤ちゃんが産道を通りやすくするために、骨盤を緩めるリラキシン というホルモンが出産に伴って分泌されます。リラキシンの作用によって骨盤の結合組織が緩むと、産後は姿勢が悪くなりやすく、それが膝の痛みにつながることが考えられています。


妊娠でお腹が大きくなってきたときに上半身を反るような姿勢になると、太ももの骨(大腿骨)が体の外側にねじれるようになり、膝の形がO脚の状態に近づきます。O脚になると、膝の内側にある関節と、外側にある靭帯に負担がかかりやすくなるため、骨盤のゆがみが結果的に膝の痛みの原因になってしまうのです。

また、リラキシンは骨盤だけに作用するものではなく、膝の関節にも作用します。そのため、単純にリラキシンの作用によって膝の痛みを感じて いる場合もあるでしょう。

姿勢がゆがんだ状態のまま生活することにより、全体のバランスを取るために膝に負担がかかりすぎることも考えられます。

母乳によるカルシウムの影響

母乳育児中は摂取したカルシウムが母乳となって体外へと出ていくため、お母さんの体はカルシウムが不足しやすい状況です。

カルシウムが不足すると神経伝達の機能維持などのために骨からカルシウムが溶け出すのですが、溶け出したカルシウムは膝軟骨にも入ります。

カルシウムが入った膝軟骨は硬くなり、結果的に膝のクッション性が損なわれることにつながるため、軟骨のすり減りから膝の痛みが起こるケースがあります。

産後に起こる膝の痛みの対策

ここからは産後の膝の痛みに対する対策を説明します。

膝の痛みの元となる骨盤のゆがみを整えることや、予防のために体がゆがむ姿勢を取らないこと、またストレッチや筋トレ、サポーターの使用などについて説明します。

正しい姿勢を意識する

膝の痛みが気になったら、まずは正しい姿勢を意識しましょう。あごは軽く引いて、背中、後頭部、お尻、ふくらはぎ、かかとがすべて壁につくように立ち、できれば腰の部分に手のひら1つ分くらいの隙間をつくります。その状態を5分間維持するトレーニングの習慣をつけることで、姿勢が良くなることが期待できます。

また、産後1カ月~2カ月以降などかかりつけ医から許可が下りた場合には、整骨院などで姿勢を整えるための施術が可能です。これは必ずしも受けなければならないものではありませんが、産後の腰痛や膝の痛みといった体の痛みに効果が出ることがあります。施術を受けても良い時期は整骨院によって方針が多少異なりますが、産後1カ月や2カ月~6カ月くらいが一つの目安になるでしょう。

施術を受けに行く場合は、産後の施術に対応しているかどうかを電話などで確認しておくことが大切です。

整骨院によって施術方針に違いがあったり、産後の施術は行っていなかったりする場合もあるため、注意が必要です。

体がゆがむ体勢を取らない

座るときは椅子に座るなど、できるだけ膝を曲げないように過ごすとよいでしょう。また、椅子に座るときは、足を組むことや立て膝などはせず、体がゆがんだり膝の負担になったりする姿勢は避けることが大切です。

床に座るときは、正座やあぐら、横座りなどは避けて、お尻の下に小さなクッションなどを敷くのがおすすめです。

お部屋の都合などで椅子などを置けない場合は、小さめの椅子を用意するだけでもよいでしょう。和式よりも洋式の生活を意識すると、体のゆがみや膝の負担を軽減できます。

栄養バランスの取れた食事をする

カルシウム不足が産後の膝の痛みにつながるため、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを摂取することが大切です。

カルシウム は主に牛乳・チーズなどの乳製品や、豆腐・納豆などの大豆製品、野菜では小松菜・チンゲンサイ・白菜・切り干し大根など、また、イワシ・ししゃも・しらす干しなどの魚介類 、ひじきなどの海藻にも含まれています。

ビタミンD は魚介類だとサケ・ウナギ・サンマ・イワシ・ブリ、しいたけ・きくらげなどのきのこ類にも多く含まれており、日光に浴びることによっても体内で生成することが可能です。
野菜や穀物、豆類などにはあまり含まれておりません。

イワシなどの魚介類には、カルシウムもビタミンDも多く含まれていますが、カツオ・サバ・ブリなどはカルシウムがあまり含まれていません。

反対に摂取を控えたい栄養素にはリンが挙げられます。カルシウムの吸収を阻害する作用があるため、留意しておきましょう。

また、カルシウムを一生懸命摂ってもビタミンDが不足していると吸収がうまく行きません。ビタミンDは体内で合成できないビタミンで、日の光に当たるか、サプリメントで補充する必要があります。天気の良い日に軽い運動も兼ねて、無理のない範囲でお散歩に出かけてみてはいかがでしょうか。

ストレッチ・筋トレを行う

膝に関連するものだと、外転筋のストレッチや四頭筋の筋トレがあります。また、太ももの前面にあたる部分が緊張していると感じる場合には、大腿四頭筋のストレッチもおすすめです。

外転筋のストレッチは、仰向けに寝て膝を90度で立てたら、右の足首を左の膝の上にかけます。その状態で左の膝を抱えると右お尻の外側の筋肉が伸びるため、数秒キープします。反対側も同様にしてみましょう。

大腿四頭筋の筋トレは、仰向けに寝て膝の下にクッションなどを置いて行います。クッションを下に押し付けるように膝をまっすぐにして数秒キープし、これを3セットほど繰り返すと大腿四頭筋を鍛えることが可能です。

大腿四頭筋のストレッチは立った状態で行います。壁などのつかまることができる場所の近くで、片方のかかととお尻を近づけるように足を曲げて、そのつま先を手で持ちます。強くするよりも、リラックスして息を吐きながら行いましょう。

サポーターを使う

膝のサポーターを使うことで、楽に過ごせる場合があります。サポーターを選ぶ際には、締め付けが強すぎないサイズを選ぶことや、通気性が優れたものを選ぶことが大切です。着脱のしやすさや、筒状やベルト状などの形状も選ぶポイントになるでしょう。

サイズ感は立った状態と座った状態とで感じ方が異なります。座った状態だと膝に食い込んで血流が悪くなる場合もあるため、サイズは慎重に選びましょう。

サポーターを長時間にわたって着用するとかぶれの原因になります。膝裏は皮膚が薄いため、気になる方はサポーターの素材もチェックしておきましょう。

こんなときは病院へ

産後の膝痛は珍しくないものですが、場合によっては注意が必要な原因が潜んでいることもあります。
ここでは、膠原病と変形性膝関節症について説明します。

膠原病

膠原病(こうげんびょう)は、免疫反応の異常により血管・皮膚・関節・筋肉など全身に炎症 が起こる疾患です。発症する確率としては高いものではありませんが、出産に伴って発症する方がいるのも事実です。

膠原病の中には、全身性エリテマトーデス や関節リウマチが含まれており、これらの症状によって膝の関節に痛みを感じる場合があります。

関節痛以外の症状としては、発熱や皮疹、体のだるさや食欲の低下、起床から30分以内に体がこわばることなどが挙げられるため、少しでも気になる症状がある場合はかかりつけ医に相談しておきましょう。

変形性膝関節症

産後の膝痛が長引いている場合は、変形性膝関節症につながり 、膝軟骨が少しずつすり減って、歩くときや階段の上り下りのときに膝の痛みを感じます。治療をせずにいるとO脚が進んだり、正座やしゃがむことができなくなったり、生活の質が低下する原因になるでしょう。

また、変形性膝関節症になると、膝が痛いことが理由で動かなくなり、運動をしないことによって体重が増加し、膝が痛むことからさらに動けなくなる、といった負のループにも陥ってしまうこともあります。

治療には大きく分けて保存療法と手術があり、投薬による治療や運動療法などは保存療法に含まれます。膝の痛みが長引いている方は、一度かかりつけ医に相談しておいた方がよいでしょう。

まとめ

産後の膝の痛みは、出産に伴うホルモン分泌の変化や骨盤のゆがみ、抱っこなどいくつかの要因によって起こるものです。その対策として、膝の負担になることを避ける、膝の負担を減らすためにストレッチや筋トレをする、サポーターを使用することなどがおすすめです。

産後で落ち着かない時期ではありますが、思わぬ疾患が隠れていることもあるため、気になることがある場合はかかりつけ医や整形外科の先生に相談してくださいね。

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

プロフィール

平成28年旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院などでの勤務を経て、総合病院やクリニックで産科・婦人科・生殖医療に携わっている。