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妊娠初期の腹痛|症状や注意が必要なときについて解説

2023.05.18

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

妊娠初期にはホルモンバランスの変化でさまざまな体調の変化が現れるもの。とはいえ、腹痛が何度も起こったり、出血があったりしたら心配になりますよね。

同じ腹痛でもズキズキするものやチクチクするものなど、痛みの感覚が違うと「これは病院で診てもらった方がいいのかな…?」と心配になるものです。

ここでは妊娠初期の腹痛について、症状の特徴や原因、対処法、診察を受けた方が良い場合について説明します。

妊娠初期に起こる腹痛の原因

まず、妊娠初期の腹痛の3つの原因について説明します。

  • ホルモンバランスの変化
  • 子宮が大きくなること
  • 子宮周辺の靭帯(じんたい)が引き伸ばされること

これらの症状はいつまで続くのか気になるところかと思います。多くの方は16週(約4カ月)くらいに落ち着くことが多いですが、中には20週台前半まで続くこともあり、腹痛の期間には個人差があると考えておきましょう。

ホルモンバランスの変化

妊娠初期はエストロゲン(卵巣ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンやhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)と呼ばれる妊娠に関連したホルモンの分泌が増え、ホルモンバランスの変化が大きくなります。

その結果、つわりとして、腹痛だけでなく、頭痛や吐き気、イライラ、眠気、食欲や食の好みの変化など、体にさまざまな変化が見られるのです。

妊娠の状態を維持するために分泌されるプロゲステロンという黄体ホルモンには、腸の働きを抑える作用があります。プロゲステロンによって便秘が起こったり、hCGの作用によるつわりで食事量が変化したり、偏食になったりすることで腹痛につながることが考えられます。

子宮が大きくなる

赤ちゃんが成長する時期には、子宮が引き伸ばされて、大きくなる際に痛みを感じることがあります。

また、大きくなった子宮によって、胃など周辺の臓器が圧迫されて痛みを感じる場合もあるでしょう。この場合、チクチクした痛みを自覚する方が多くいます。

子宮の大きさの目安としては、妊娠直後は大きく変わらず、2カ月後くらいには卵やレモンくらいになります。

子宮周辺の靭帯が引き伸ばされる

子宮が大きくなると同時に、子宮周辺の靭帯も引き伸ばされるため、それが原因となって腹痛が起こる場合もあります。

この腹痛は、子宮から左右に伸びている円靭帯(子宮円索)が伸びることで起こっています。足の付け根や鼠径(そけい)部、脇腹の下のほうに痛みを感じるのが特徴であり、名称としては牽引(けんいん)痛や円靭帯症候群と呼ばれているものです。左右の両方、もしくは片方だけが痛む場合もあります。

妊娠初期に起こる腹痛の特徴

妊娠後の腹痛は多くのお母さんが経験するものです。

ここでは、便秘や下痢、感染症、胃痛などが原因の腹痛について説明します。
基本的に心配し過ぎる必要はありませんが、思わぬ病気が隠れていることもあります。危険な場合のサインを見逃さないようにしておきましょう。

便秘による下腹部の痛み

妊娠に伴う便秘によってチクチクとした下腹部痛を感じることがあります。便秘の原因はプロゲステロンの分泌により腸の働きが弱くなることであり、お腹が重たい感じになります。

下痢による痛み

妊娠後はホルモンバランスの変化によって胃腸機能に影響が現れますが、便秘ではなく、下痢になる方がいます。
下腹部からお尻へキリキリした痛みが現れるでしょう。

また、子宮が大きくなると、胃腸が圧迫されて消化不良になり、下痢が起こることもあります。

感染症による痛み

感染症による痛みが腹痛の原因となる場合もあります。性感染症には流産を引き起こすリスクもあるため、十分に注意が必要です。腟内の感染症対策の一つは、性交渉時にコンドームを使用することです。

また食中毒などの細菌感染を防ぐために生ハム・魚・ナチュラルチーズなどの生ものを避けるようにしましょう。

胃痛(みぞおちの痛み)

胃がキリキリしたり、ギューッと締めつけられたり、ムカムカする感じがするといった、妊娠に伴う胃痛(みぞおちの痛み)が現れることもあります。

原因はホルモンバランスの変化で胃腸機能が低下することですが、つわりによって偏食になることや吐き気を抑えたくてつい食べ過ぎてしまうということも原因として考えられます。

生理痛に近い痛み

子宮が大きくなることが原因で生理痛のような腹痛が発生することがあります。
妊娠中の子宮は、大きくなるために何度も収縮をするので、その時に痛みが発生することもあります。

出血したり、出血はなくても痛みが徐々に強くなったりする場合は診察を受けた方がよいでしょう。

痛みが強くなり、目が覚めるほどの腹痛

非常に強い腹痛がある場合は危険な状態かもしれません。進行流産や異所性妊娠(子宮外妊娠)、絨毛膜下血種などの可能性が考えられます。

この場合も無理せずに、できるだけ早く診察を受けるようにしましょう。

左右どちらかが痛む

下腹部の左だけ、または右だけなど、どちらかが痛む場合は子宮周辺の円靭帯が引っ張られていることが原因として考えられます。

子宮は左右均等に大きくなるわけではなく、片側が大きくなったときに痛みが現れることがあります。
異所性妊娠の場合にも左右どちらかが痛むことが多くあります。

着床痛

精子と卵子が受精し受精卵となり子宮内膜に入り込んだ後、お腹あたりが少しだけチクっとしたり、ツーンとしたり、生理痛に近いような痛みを感じる方がいます。

着床は最終月経を0週とすると、受精卵が成長する期間を計算して、ちょうど妊娠超初期を終える3週あたりに起こると考えられます。着床痛は必ずしも全ての妊婦さんに起こるものではなく、医学的な根拠もありませんが、必要以上に不安にならないためにも覚えておくとよいでしょう。

腹痛でつらいときの対処法

では、妊娠初期に腹痛でつらいときには、どのような対処法があるのでしょうか。

ここでは、安静にすることや体を温めること、水分や食物繊維を摂ること、また薬を飲みたいときには医師の処方を受けることなどを説明します。

楽な姿勢で休む

お腹が痛いときは無理をせずに、座ったり、横になったりして安静にすることがとても大切です。痛みが引いてもすぐには動かないようにして、お腹に力が入るような動きや長時間にわたって立ったままで過ごすことは控えましょう。

どうしても動かないといけない場合はゆっくりとしたペースでできる限り体に負担がかからないようにしておきましょう。
安静にしている間は、痛みがあった時間の長さや頻度を記録しておくと、診察を受けるときや次に腹痛があったときに役立ちます。

体を温める

体が冷えることによって血流が悪くなり、痛みなどの不調が現れることもあります。

足首や腰など体の一部を温めることによって痛みが和らぐこともありますので、安静にして、服を一枚羽織ったり、温かいものを飲んだりするとよいでしょう。身につけると良いものは腹巻やレッグウォーマーなどがあります。

お茶はノンカフェインのものがおすすめです。また、生姜を摂ることもよいでしょう。

水分補給や食物繊維を摂る

下痢や便秘が起きているときは水分補給を心がけましょう。

便秘のときは、水分を含むことで便が柔らかくなります。野菜などから食物繊維を摂ることでも外に出しやすくなるので、食生活からもアプローチしてみましょう。

また、下痢だと脱水症状になる可能性がありますので、こまめに水分補給をすることが大切です。
1週間以上にわたって便秘が続いたり、下痢がひどくて熱が出たり、暑いのに汗が出ず手足が震えるなどの脱水症状が見られる場合は診察を受けましょう。

薬を飲みたいときは病院に相談する

腹痛がつらくてお薬に頼りたいときは、一度医師に相談することが大切です。

赤ちゃんへの影響を考えると自己判断でお薬を飲むことは得策とはいえません。
産科の先生に診てもらって、処方されるものを用法用量に従って服用しましょう。

病院で診てもらった方が良い腹痛

最後に、病院で診てもらった方が良い腹痛についてお伝えします。

診察をスムーズにするためにも、これらのことをできる限りメモしておくとよいでしょう。

  • 痛みが始まった時期
  • 痛みの持続時間
  • 痛む場所
  • 痛みの強さや間隔
  • 痛みは生理痛に似ているかどうか
  • 出血の有無(量、色、形状)
  • おりもののにおいや状態

痛みが続く

安静にしていても、1時間に何度も痛みが起こって治まらない場合や、痛みが増す場合は注意が必要です。
実際にこのような腹痛が起こったときは診察を受けて良いか迷われる方もいますが、症状が急に強くなる可能性もあって危険です。

気になる場合は病院に電話で問い合わせるようにしましょう。

出血が伴う痛み

必ずしも赤ちゃんに影響があるというものではありませんが、出血を伴う場合や、おりものが茶色のときなどは診察を受ける方が安心できるでしょう。

出血が続いても無事に出産する場合もありますが、中には子宮筋腫や卵巣嚢腫(のうしゅ)など思いがけない病気によって不正出血が起こっている場合もあります。

出血以外にも発熱や下痢など、他の症状がないかも確認しておきましょう。

冷や汗をかくほどの強い痛み

強い痛みとともに、吐き気や冷や汗が同時に出るような場合は自然に軽快しない病気の可能性があります。

目が覚めるほどの強い腹痛や、お腹が刺されているように感じる痛みの場合は、流産や子宮外妊娠(異所性妊娠)といったケースも考えられます。早急に診察を受けた方がよいでしょう。

まとめ

妊娠初期の腹痛の原因や特徴、対処法、注意が必要な状態について説明しました。

腹痛があると流産が頭をよぎる方もいますが、実際に流産の多くは12週までの早期流産が多く、そのほとんどが染色体異常によるものです。
普段通りの腹痛かと思えば、想定外のことに陥っているケースもありますので、何度も繰り返すときやあまりにも痛みが強いときなどは注意が必要です。

病院にかかるときのためにも、どのような腹痛が体のどこで、どれくらいの時間にわたって起こったのかを記録しておきましょう。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。